・これまでのあらすじ
 佐天さんマジ佐天使。
 だがそれは一方通行や風斬氷華と佐天さんが同等に位置づける恐怖の言葉でもある。
 そういえばインデックスは「天使」である風斬や一方通行の存在を肯定した。
 「佐天さんマジ佐天使」とは禁書世界のルールだとインデックスによって佐天が救われる事を意味していたんだよ(キリッ

 しかし不幸にも佐天さんはインデックスに精神的に救われてしまっただけでなく上条当麻の影響を受けてしまった。
 カミやん病を制した者は超能力者(レベル5)ですら打ちのめすという……。


〜〜〜〜〜

 その頃、上条当麻は学園都市を携帯電話を片手に走り続けていた。

「なるほどな。初春とか言ったっけ?話はだいたいわかったよ」

『呑みこんでもらえて助かります』

 上条が傷だらけの御坂妹から話を聞こうとした所、ジャッジメントを名乗った初春という少女からも電話がかかってきていた。


〜〜〜〜〜


「ミサカ達を助けて下さい」、と頼む御坂妹。

 御坂妹の話を聞こうとしていた上条はすぐさま電話を切ろうとしたが、初春もまた上条にこう頼んだのだ。

『白井さんと佐天さんを助けてくれませんか?』と。

 すぐに上条は御坂妹と初春の望む物が限りなく近い事に勘付いた。


〜〜〜〜〜

「つまり、一方通行の実験がまた始まっちまうかもしれねえと御坂姉妹は思ってる。それを止めようとした御坂を白井と佐天が助けようとしてピンチだって事か」

『だいたいそんな感じです。ただ白井さんは御坂さん絡みというだけで殆ど何も知らないで首を突っ込んでますし、佐天さんに至っては……ねぇ』

 この事件はやけに複雑に入り組んでいる。
 当事者達は誰もこの状況を全て把握しきれてはいないのだろう。
 だが全容を理解出来なくても拳を握る事は出来る。そこに理由さえあれば。
 だが上条が直感した理不尽は別の所にある。

「でも佐天が美琴に怒る理由ってのも分からなくもねえんだ。あいつはあいつなりに美琴に対して怒ってる。その佐天にとって拳を握る理由ってのは白井も同じだと思う」

『どういうことですか?』

「美琴の奴、この期に及んでまだ一人でビリッと解決とか抜かしてるってことだろ。それに置いて行かれりゃ白井も佐天も怒るだろ」

『……なるほど。話には聞いてましたが、本当に説教臭いんですね』

「俺は説教のつもりはないけどな。俺なりの直感って奴だよ」

 あの実験で美琴は一人で学園都市の暗部に立ち向かい、一人で潰れようとしていた。
 上条が『不幸』にも巻き込まれなければ美琴は自殺まがいな特攻を仕掛けて潰れていただろう。
 そんな失敗をしたにも関わらず、また一人でなんとかしようとしているのだろう。

 ふざけやがって、と上条ですら思う。
 それは佐天なら尚更だろう。

『あ、そこの突き当たり右です』

「ああ、わかった」

 上条の現在位置は初春に筒抜けらしい。
 だがそのおかげで次へどこへ行けばいいかハッキリと分かる。
 今、目指す場所は……。

「だったら最優先は佐天と美琴でいいか?」

『ええ。白井さんはあの人なりの意地で動いてますし、仮にレムナントが奪われても妹さんの実験はすぐには始まらないでしょう』

「一方通行の奴が間違った事をやらかしたら、その時はまたぶっ飛ばすさ」

 上条は目の前に見える物を全て救おうとするタイプではあるが、その一方で深く考えない所もある。
 それは何から始めればいいのか迷わずに決断出来るという側面もある。
 そのせいで以前は天草式と殴り合ったなど悪い事も多々あった。
 だが結果的にその決断の早さが致命的な事態を防いできたのも否めないだろう。

 今は何をすべきか上条なりに分かっている。
 それに今も一緒に居るあいつがそれを望んでるから。

「とうま、早く急ぐんだよ!今も短髪がるいこを虐めてるに決まってんだよ!」

 上条と共に並走しながらぼやくのはインデックスだった。本来は置いていくつもりだったが何故か付いて来たのだ

「いや美琴はあれでいて自重は出来る奴だと俺は信じてるからさ。流石に佐天に向かってビリビリをぶっ放してるとは思いたくない……んだがなぁ」

 美琴が人を殺せるような奴じゃないのは上条だって分かってる。
 恐らく黒子だって上条以上にそれを理解してるから美琴の味方をしようとしてるのだ。
 だが美琴が佐天に向けて能力による暴力をふるっていないとは限らない。
 美琴が本気になれば幻想殺しを持たない「ただの」無能力者である佐天は手も足も出ないだろう。
 もしそうだったら上条はどうすればいいのだろうか。

『でも御坂さんってしょっちゅう佐天さん虐めてますからねぇ』

「……マジか?」

『女子校生を甘く見ちゃいけません。と言っても御坂さんは佐天さんに能力は使った事無いはずですけどねぇ。ただこんな状況ですから……』

「ちっ!」
 
 ただ上条は右手を握りしめて走る。

「(待ってろよ……美琴!佐天!)」


〜〜〜〜〜



 佐天が美琴を殴り飛ばして幕を開けた「喧嘩」はあっけなく状況が入れ替わっていた。

「だから言ったじゃないの……佐天さんが私に叶う訳ないって!」

 美琴は倒れた佐天を見下ろして嘆くように叫んだ。
 だがそれは当然の帰結であった。
 佐天が美琴を殴れたのはほぼ不意打ちだったからだ。

 美琴がちょっと本気を出せば佐天に叶う訳が無い。
 佐天にはこうして「不良の料理法」を喰らって地に伏すしかない。
 どんどん威力が上がって、そしてご覧の有り様だ。

 大抵の無能力者を気絶させられる美琴の能力。
 だが、これでも本気を出した訳ではない。
 美琴が本気を出せる無能力者などこの学園都市にただ一人しか居ない。

 あの佐天さんがここまでやるとは美琴は思わなかった。
 だがこれが現実。
 佐天には幻想殺しなど無いのだ。

「ごめん佐天さん……早く黒子の戦いを止めなきゃ……」

 美琴は佐天を置いて黒子と結標が戦っている戦場へ向かおうとする
 その間も未練たらしく倒れた佐天を見下ろす。
 だが美琴は不意に足首を掴まれて転びそうになる。

「っ!」

 美琴の足首を掴んでいたのは佐天だった。
 彼女は「不良の料理法」を喰らってなお気を失っていた訳ではなかった。
 だが息も絶え絶えで正直きつい。

 それでも佐天は美琴から逃げない。

「ここで御坂さんごときに負けてたら……」

 佐天はかつて美琴からレベルなんて関係ないじゃないと言われた事に傷ついた。
 だが実際レベルなんて関係ない。

「上条さんからインちゃんを……」

 そうだ。今の佐天の最大の目的はただ一つ!

「寝取れないんだ!」

 上条からインちゃんを寝取る事だっ! 

「知った事じゃないわよ!」

 美琴は佐天を吹き飛ばす。
 佐天が上条に借りを作りつつも、あの白いシスターを上条から奪いたいというのはわかる。
 それを否定する理由が美琴にはない。利害も実は一致している。
 だが今はそれどころじゃない。

「黒子が戦ってるのよ!だから私が決着をつける!だからお願いだからそこをどいてよぉ!」

 今、黒子は結標淡希と戦っているはずだ。
 美琴は自分のせいで佐天も黒子も傷つけた責任をとろうとしているのだ。
 だが佐天は尚も引き下がらない。

「白井さんは大丈夫!こんな所で負けない!」

「なんで佐天さんにそんな事言えるのよ!」

「レベルなんて関係ないからですっ!」

 ああそうだ。レベルなんて関係ない。
 そんな事、美琴もよく分かってるじゃないかと佐天は思う。
 佐天もあの上条と関わって何かに感染したようだ。

 でもそれで良いと佐天は思う。
 上条への対抗心のおかげでこうして佐天は初めて美琴と同じ視点で向き合えているんだから。

「今、初春が上条さんに電話してくれてます!上条さんが助けに来てくれるんです!」

 佐天から飛び出た少年の名に美琴は驚いた。
 美琴の中で本当の意味でレベルなど関係ない天災。
 それが上条だった。

「な…んですって?」

「あの人が助けに来てくれれば結標なんて説教してそげぶっと解決ですよ!」

 佐天がこうして美琴の足止めをしているのも上条が来るのを待っていたからだ。
 もちろん助けてくれる保証などない。
 だが美琴にとっては十分だった。

「そう……あの馬鹿が……っ」

 美琴は顔を紅潮させて照れ始めた。
 そして夏休みの最終日の事を思い出す。

 あの日、上条がとある少年と喧嘩した際にこう言っていた。

『ああ。御坂とその周囲は俺が守る』

『フッ……最低な答えだ』

 その約束を上条は守ろうとしてるのだろう。

 上条が来れば佐天と美琴が「喧嘩」する理由は無くなる。


 −−−かに思えたがそんな事にはならなかった。


「何を勘違いしてるんですか、御坂さん!まだ喧嘩は終わってませんよ!」

「えっ!?」

 黒子や上条の話はあくまで全体の状況だ。それは最優先すべき事柄ではある。
 だがそれとこの「喧嘩」は別だ。

 黒子が結標に戦いを挑んでいるのは美琴の為ではあるが、それと同時に黒子自身が結標の事が気に入らないという個人的な動機もある。
 上条に至っては人助けが趣味なだけだからハッキリ言って放っておいても良かった。状況的には味方なんだし。

 だが佐天には佐天なりの動機がある。佐天は個人的な動機で美琴に挑んでいるのだ。
 佐天は美琴と向き合う為。そしてその先に居る上条へ届く為に今こうして立ち向かっている。

 とりあえず美琴に隙が出来た。
 だが顔面に拳をぶち込んだ所で佐天の拳では決定打にはならないだろう。
 そもそもこの「喧嘩」で佐天は改めて再確認した。

 ―――上条のような生き方は佐天には出来ない。

 だったら佐天なりの流儀で挑むしかない。

 佐天が思い出したのは昼ごろにあったいつもの日常であった。

『ふっ……佐天さん? この初春飾利のスカートをめくり続けられると思ったら大間違いですよ。私も御坂さんを見習ってスカートの下に短パンを装着したのです!』

 短パンでどや春となった初春のふざけた短パンをずり降ろした。

『き……きゃーっ! な、何するんですか、さ、さ、佐天さん!』

 美琴の真似をしてスカートの下に短パンを履いた初春だったが、佐天の前にずり降ろされた。
 その後、唐突に現れた黒子はこう言った。

『い”え”っ!分かってないのはお姉様ですの!無能力者であろうと超能力者であろうと常に上を目指す事が大事なんですの!淑女として!』

 レベルなど関係ない。上を目指す事が大事なのだ。

『佐天さん!あのスカートの下に履くふざけたお召し物を剥ぎ取るその手腕。黒子は感動しましたの。まさに淑女!』

(テテーン♪)

『佐天さんはその素晴らしい能力を無駄遣いしてますの』

 そうだ。上条のように説教して殴るだけが戦い方ではない。
 佐天には佐天なりの上の目指し方がある!

『そうっ!初春のスカートではなくもっと上のスカートを狙うべきですの!ぶっちゃけお姉様のお召し物を剥ぎなさいましっ!』

 やれるっ!今まで初春のスカートをめくり続けてきたのだ。
 上条にうつつを抜かしている美琴の短パンだって剥いでみせる……っ!

「でぇいっ!」

 佐天は美琴のスカートを力強くめくり上げた。
 その勢いは佐天が持つ「風力使い(エアロシューター)」としての才能を絞り出すかのような一撃だった。
 かつて幻想御手(レベルアッパー)を使用した時に限りなく近い、弱々しくても力強い風。
 それが美琴のスカートをめくりあげている。

「さ、佐天さん!?」

 せいぜい低能力(レベル1)の風力を絞り出す程度であったが、流石に至近距離から急激な風を放たれれば美琴も思わず焦る。
 しかしその下には黒子に言う所の「ふざけたお召し物」……つまり短パンがある。
 それは美琴の内面を隠しているかのようでもあった。

「いいよ、御坂さん……あんたがそうやって本心を隠し続けるってんなら……まずはっ!」

 そして佐天はただ手を伸ばす。
 幻想殺しなど要らない。不幸でもない。
 この右手で美琴の本性を剥ぎ取って見せる!

「そのふざけた短パンをずり降ろす!」

 しょっちゅう女性にセクハラをする不幸(本人談)に見舞われる上条ですら美琴の短パンの中身は見たことないのだ。
 上条に悪意は無いのだから仕方ない。本人は超硬派(自称)のつもりだから。
 だが学園都市の暗部でうごめく猟犬部隊(ハウンドドック)ですら知らぬ超電磁砲のスカートの中身。
 まさに幻。不幸ですら見れぬ本性。

 美琴の短パンの中身は子供向けキャラが描かれた子供パンツだ。
 その本性を佐天は剥ぎ取る。
 そして学園都市に見せつける!
 不幸も幻想殺しも要らない!それが友情だ!

 それを初めて実力で剥ぎ取った無能力者は……佐天涙子だった。

「な、何やってるのよ佐天さん!」

 美琴は我を忘れて短パンを佐天から奪い取ろうとする。
 だが佐天は短パンを離さない!
 ここで離したら黒子に顔向けできなくなる!
 上条にも追いつけなくなる!

―――そして佐天はとっておきの一声を発した。

「あーっ!上条さん来てくれたんですかー!見て下さいよ、御坂さんのスカート!」

「え?なんであのバカ来てるの。やだ止めてよ佐天さん。恥ずかしいじゃないのよ。何よ何よ私と私の周囲を守るってどういう事よ。って事は黒子も初春さんも佐天さんも?もしかしてママも!?そ、そうよね。あんたそういう奴だものね。勘違いするんじゃないわよ。何ときめいてるのよ私の心ーっ!」

「み、御坂さん?なんか発電してますよ……」

「ふにゃー」

「ふにゃーじゃないですってばぁああああああああああああああああっ!!!!!!」

 佐天のハッタリのせいで上条に短パンの中身をみられたと思いこんだ美琴は能力を抑えきれず暴発した。
 制御出来ない能力によって回路がパンクしたのである。
 そしてそれに応じて放たれる容赦のないビリビリに佐天は巻き込まれ、そして佐天と美琴は二人同時に倒れこんだ。

 無能力者(佐天)と超能力者(美琴)の「喧嘩」はこうして相討ちとなったのである。


 〜〜〜〜〜


―――それから。

「……おい」

 佐天は頬を叩かれて目を覚ました。

「おーい。生きてるか、佐天」

「なんだ上条さんですか」

 どうやら美琴の短パンをずり降ろしたのはいいが、能力暴走に巻き込まれて気を失っていたらしい。
 だがこうして生きている。美琴は彼女なりに手加減をしたのだろう。
 そして上条が駆けつけて来てくれた以上、佐天が美琴と戦う理由はない。
 表向きは上条が来るまでの時間稼ぎとして美琴に勝負を挑んでいたのだから。実際は美琴とのぶつかり合いのためでもあるが。

「とりあえず初春と変わる。それじゃ俺は美琴を起こしに行くよ」

 そう言って上条は佐天に携帯を手渡して、近くで倒れてる美琴の元へ駆け寄った。
 受話器に耳を当てると聞きなれた甘ったる声が響いてきた。

『佐天さーん、大丈夫ですか?』

 心配する親友に対し佐天はぼやくように呟く。

「初春……私、御坂さんの短パンずり降ろしたよ……」

『はぁ……』

「もしかして初春寂しい?」

『いや全然。むしろ私だけがスカートめくりの被害者じゃなくなるんだって清々しました』

「あ、そう」

 もしかしたら初春は佐天にスカートをめくられるのも仕方なく我慢してやっていたのかもしれない。
 佐天の劣等感を刺激しないように……。
 でもそれも一つの解釈。真実は分からない。

 ただ言えるのは初春も佐天も美琴も夏休みの時に比べて変わったという事くらいか。

 だが変化する事は寂しさだけではない。
 良き出会いも有り得るはずだと信じたい。
 少なくとも今の佐天にとって良き出会いの象徴である白い少女が、その胸に飛び込んで来ていた。

「るいこーっ!」

「イ、インちゃん!」

 佐天に抱きついてきたのはインデックスだった。
 しかしこの件とは何も関係ないインデックスが何故居るのだろうか、と佐天が疑問に思ってるとインデックスが語り始める。

「かざりが言ってたんだよ。短髪がるいこを虐めるんだーって」

「えっ?」

 インデックスの言う『かざり』とは初春飾利、そして『短髪』とは美琴の事だろう。

「短髪は『れべる』とか『群れる事しか出来ない』とか私はよく分かんないけど、そうやってるいこを虐めてたんだってかざりが言ってた」

「いや、それ初春の誇張……だと思う」

 最近の初春は黒い。
 ある事ない事吹きこんでても不思議じゃない。
 とは言え似たような事を言われ続けてた記憶もある。

「ううん。とうまもそれくらい言ってたかもしれないって言ってたんだよ。学園都市から見れば、るいこもとうまと同じなんだよね」

 インデックスは魔術の知識はとてつもなく膨大だ。
 その一方で学園都市の常識には全く疎い。
 だから佐天の悩みなど分からないはずなのだが、だからこそ佐天を救おうとしてるのだろう。

 インデックスは我儘な子供ではあるが、それと同時に十字教のシスターとしてふさわしい慈愛も持ちえているという事だ。
 この町のどこかに居る風斬氷華の心もインデックスはその無邪気さと慈愛で救ったのだから。

「私には短髪が凄いとはあんまり思えないんだよ。とうまの事が好きな子ってしか私には分かんない」

 つまりインデックスにとって美琴も佐天も違いなど何もないのだろう。

「まあ、でもとうまに置いてけぼりにされがちな所だけは短髪に共感出来るんだけどね」

 しかしそれとこれとは別。インデックスには美琴に対して本人達にしか分からない共感もあるのだろう。

「でも、るいこは凄いよ。そこは自慢してもいいんだよ」

「インちゃん……」

―――ああ、下らない。
 レベルなんて関係無かったし、群れる奴を馬鹿にしていた美琴はそのせいで失敗して今もこうして上条を取り巻く「群れ」がその尻拭いをしようとしている。
 だけど間違いを犯すのは人間だから仕方ないのだ。だって中学生の女の子なんだから。

 ただ佐天はインデックスと出会えて幸せであった。
 今の佐天はインデックスによってその存在を承認されている。
 彼女の言葉が佐天の心に響く。その大本は『イカのような娘』に似てるとかそんな事はどうでも良い。
 インちゃんと出会えて本当に良かった。佐天はそう思うのだ。

 一方、美琴は焦点の定まらない茹でダコ状態となっていたが上条に頬をぺしぺしと叩かれる。

「ふにゃー」

「ふにゃーじゃねえよ。そのふざけたふにゃーをぶち殺すぞ」

 いっぺん脅しをかけているように見えるが、上条の台詞がいちいち物騒なのはいつものノリだから仕方ない。

「はっ!あんた、私のパンツ見た!?」

「何言ってんだ……。しっかりしろ、美琴。お前のスカートの下は短パンじゃねえか」

「へ?」

 美琴は挙動不審になりながら、佐天とインデックスの方を見やる。
 そして佐天はジェスチャーで語る。

「(ウソです)」

 実は先ほど佐天は短パンを剥ぎつつも「上条が来た」と叫んでいたがあれはウソだった。
 あくまで『UFOが飛んでいる』とか指を指して叫ぶようなその程度のハッタリだ。
 美琴の能力で自壊させるための佐天の作戦であったが、結果的に成功したと言える。

 そんな事は露知らず、上条は安心したように呟く。

「とりあえずなんだ。女子中学生の日常はよくわからんねえけど、たまには本気でぶつかりあうってのもいいんじゃねえの?お互い言いたい事を言えずに溜めこんでるのも良くないと思うしな」

「大きなお世話ですよ。全く……」

 上条の説教に佐天は返す。
 だが上条が居たおかげでぶつかりあえたのかもしれない。
 今までだってテレスティーナとの抗争の前にも色々あったが、そうしたまとめ役としてのポジションを佐天は見出そうとしている。
 そんな佐天の自信に気付いたのか上条は納得したように笑う。

「そうか。だったらいいや」

 上条は彼なりに納得したのだろう。そして次にやらなきゃいけない事も分かっていた。

「美琴。状況は初春と御坂妹から大体聞いている。その上で聞くぞ。最優先は白井でいいな?」

「でも……レムナントが蘇ったら一方通行の奴が……」

「もし一方通行の奴がお前や妹達を殺そうとするってんなら、そんときはまた俺を呼べよ。あいつがまだお前らを平然と殺す『悪党』で居るってんなら、そん時はまたぶっ飛ばすさ」

 美琴はそれで納得したのだろう。
 もしかしたら美琴も最初から上条を頼れば結標淡希と戦う必要もなかったのかもしれない。

「初春が言ってたけど、お前は群れるって事を馬鹿にしてたらしいな。だけど群れるってのもそんな悪い事じゃねえと思うぞ。お前の為に頑張ってる白井とか、お前を止めてくれようとする佐天とか居るじゃねえか」

「佐天さん……」

 もはや言葉は要らなかった。佐天はレベルなど関係ない事を証明したのだ。
 佐天は静かに美琴の前へ静かに手を差し伸べる。

「行きますよ。御坂さん」

 言葉はそれだけで十分だった。

 後は結標淡希と戦っているであろう黒子を助けに行く。それだけだ。


〜〜〜〜〜

 そして結標が残した最後の攻撃を上条が殺した事によってこの一件は終わった。
 黒子は重傷で入院したものの後遺症などはないようだ。

 それから数日後。大覇星祭が始まる……。

第8話「佐天さんが大覇星祭の実行委員になったようです」




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