・これまでのあらすじ
 佐天は大覇星祭の実行委員になっていたがインデックスの世話の専念していた。
 そこを別の高校の実行委員の吹寄によって連れ去られていく。
 一方、イギリス清教はステイルと土御門のみならず天草式の五和も学園都市へ派遣するのだった。

 〜〜〜〜〜

 佐天は吹寄に引きずられるようにして借り物競争の準備に取り掛かっていた。
 第七学区・第八学区・第九学区全てを競技範囲内としており、難易度の高い競技である。
 佐天はそこで競争が終わった後の準備を行っていた。

「……あー、だるぅ」

 だが借り物競走の準備をする佐天の様子は明らかにやる気がなかった。
 能力の制限が課せられてるとは言え、やはり勝つのは高レベル能力者が多い学校なのも大きいのかもしれない。

 そんな佐天の様子を見て吹寄は呆れつつも語りかける。

「辛そうね、涙子ちゃん」

 だが佐天は首を横に振る。

「吹寄さん……インちゃんに抱きつけなくて寂しいです」

 吹寄はそれを聞いた瞬間、佐天の脳天にチョップを仕掛けた。

「何するんですか、吹寄さん!?」

「涙子ちゃん……イン娘に抱きつくの止めろ」

 吹寄の指摘に佐天は絶望的な表情を浮かべる。

「そんな……やはりインちゃんは上条さんハーレムの一員だっていうんですか……」

 だが吹寄は大きな胸を揺らしながら首を横に振る。

「いや違う。これは涙子ちゃんの為に言ってるんだ。イン娘は甘やかされすぎなのよ。上条当麻にも言える事よ」

「そ、それじゃ……私はどうすれば……」

 大人になってビッチとなるインデックスを妄想して震える佐天。

 そんな佐天に吹寄は更なる絶望的な提案を示す。

「そこでイン娘断ちだ」

「インちゃん断ち!?」

 衝撃的な一言にショックを受ける佐天。
 彼女はどうしようもないほどインデックス萌えなのだ。

 だが吹寄はやや焦りながら訂正する。

「いや冗談よ」

「冗談ですか……レベルアッパーは止められてもインちゃん断ちは止められそうにありません」

 佐天はほっと安堵する。
 今の佐天にとってインデックスの存在はレベル以上に大きな物となっていたのだ。

「イン娘は麻薬かしら」

 吹寄はちょっと悪いと思ったのか懐から佐天に健康飲料を手渡す。

「お詫びとして、これをあげるからもうちょっとシャキっとするのよ涙子ちゃん!」

「頂きますけどシャキっとしなくてもいいですか?」

「シャキっとするのよ!」

 やる気のない佐天とやる気に満ちていた吹寄はやる気に満ちていた。

 その吹寄の気力の根源が佐天にはいまいちよく分からなかった。
 佐天が大覇星祭の実行委員になった理由は『内申点を上げたいから』という身も蓋もない理由だからだ。
 どうせ低能力の学校なので常盤台などの強豪に勝てない事はよく分かってる。
 だが吹寄は彼女なりに大覇星祭を成功させようと必死に見える。

「吹寄さんはなんでそんなに頑張るんですか。どうせ勝てないのに」

 上条や吹寄の通う高校も決してレベルの高い高校ではない。
 上条の能力は確かに強力だが彼一人で常盤台を始めとした強豪に対してどうにかなるような物でもないだろう。
 だが吹寄は首を横に振り始める。

「勝てる……かどうかは分かんないわね。上条当麻は常盤台の女の子と『賭け』をしてると聞いたけど、勝てる確率は1%もあるかどうか……」

「上条さんが賭けですか?」

「バカバカしい話だけど、その対象が学校単位らしいわ。勝った学校の方が負けた学校の方を言いなりにするというくだらない物よ」

 上条と賭けをするような『常盤台中学の女の子』と言えば一人しか居ない。
 そう、佐天の親友でもある御坂美琴だ。
 上条がどう思ってるかはさておき、美琴は表面的には上条をライバル扱いしている。
 それに佐天が気付いたのは最近の話ではあるが、美琴にとっても上条は色々と気になる存在なのだろう。

「でも上条当麻の賭けなんてのは私にとってどうでもいい事よ。私が実行委員を頑張るのはみんなに楽しんで欲しいからよ」

「楽しむ……ですか?」

「そう、勝ち負けが全てじゃないのよ。臭いことを言うかもしれないけどみんなで力を合わせることに意味があると思うわ」

 この吹寄という女子高生だってレベルはそれほど高くないはずだ。
 でも彼女なりに大覇星祭を成功させようと頑張っている。
 この委員長的な吹寄が佐天は不思議と嫌いになれなかった。

「吹寄さんは立派ですねぇ……」

 上条も無能力者という点では佐天と同じだが、上条は「先」に居る存在に見える。
 例え無能力であったとしても、幻想殺しを持つ上条はかつての美琴が揶揄していたよう一種の『天災』であるからだ。

 その一方で佐天から見た吹寄という人物は上条よりも自分に近い人物に見えた。
 これも巡りあわせと佐天はそう思うことにした。

「それじゃ私は玉入れの準備に行くわね。後は涙子ちゃんに任せたわ」

「ええ、適当にやっていきますよ」

 吹寄は健康飲料を飲み切ってから、別の競技の準備へ向かおうとする。
 見る限り殆ど休んでないようのだろう。
 佐天から見た吹寄はオーバーワークなのではないかと不安に思えた。

 佐天は吹寄が居なくなってからも借り物競争の動向を黙って見ていた。
 能力の使用が制限されてるとは言え、やはり学校ごとのレベルの高低で士気が違うのはやむを得ない。

 ただ吹寄も言っていたが、勝敗が楽しみ方の全てではないのもまた事実だ。

「御坂さんの出番は……次の次の次か」

 佐天はそんなわけで上条と美琴がやってるらしい『賭け』を楽しむ事にしてみた。
 美琴が我を忘れて強がる姿は佐天の目から見ても『可愛い』と言わざるを得ないからだ。

「さて御坂さんの強がりはどこまで続く事やら」

 佐天は意地の悪い表情でニヤニヤするのだった。
 佐天は周囲を見渡すが、そこで面識のあるとある女性を目にする。

「ん……あれ。もしかして……」

 その女性は体操着に着替えて隠れ巨乳を全く隠していなかった。
 佐天はその女性の名前を呼ぶ。

「おーい、五和さーん」

 天草式の五和だ。
 本来、彼女は学園都市の人間ではないはずだ。
 年齢は上条や吹寄と大して変わらない為か全く違和感がなく風景に溶け込んでいる。
 しかし何故彼女が学園都市に居るのだろうか。

「る、涙子ちゃんですか?」

 五和は佐天に声をかけられた事にとても驚いた。
 まさか気づかれないとでも思っていたのだろうか。
 だが実際、体操着の五和はよく合っている。
 天草式はそうした隠密のプロらしいが、なんとなくその意味が佐天も分かってきた。

 佐天は深い意味を持たせずに五和に問う。

「奇遇ですね、五和さん。大覇星祭だから遊びに来たんですか?」

 五和が学園都市に来たのは「佐天の護衛」という謎の命令と「スタブソードを破壊しようとするステイル達の援護」という裏の目的がある。

 しかし五和はそれを佐天に告げる訳にはいかなかった。
 佐天が誰から狙われるかなど五和にも分からないし、スタブソードの件はなおさら佐天を巻き込む訳にはいかない。
 なので五和は惚ける事にした。

「えーと、そうですね。イギリス清教の引き継ぎが大体終わったので挨拶に来ました」

「イギリスと言ってもよく分かんないんすけどね……あっ私、イギリスのジーンズ屋から輸入してるんですよ」

「ああ、そうなんですか」

 全く話は変わるが、佐天が輸入してるイギリスのジーンズ屋とは天草式の元リーダー・神裂火織も行き着けにしているジーンズ屋である。
 だからどうしたという話ではあるが。

 一方、五和は周囲を必死で見渡していた。

「ここにも居ないわね……」

 五和は佐天の周囲から離れず、それでいてステイル達が追撃するオリアナ・トムソンを探していた。
 だが五和はローラから「スタブソードの事には関わるな」と念を押されている。

 今、インデックスには監視が付いている。
 彼女がスタブソード探索に関われば十万三千冊の知識ですぐに終わるのだ。
 だがインデックスが関わると彼女が魔術で狙撃される。
 これに近い状況に五和も置かれている。

 それでも上手く誤魔化してなんとかするのが天草式だ。
 佐天の護衛とステイル達の援護を両立しなければならない。
 そのプレッシャーは並大抵の物ではない。
 五和は実力はそれなりにあるのだが、精神的に弱い。
 上手くやれるのだろうかとプレッシャーに押しつぶされそうだ。

「あっ、御坂さんの出番だ」

 プレッシャーに押しつぶされそうな五和を正気に引き戻したのは佐天の声だった。

「あの花の髪留めの女の子は涙子ちゃんの友達ですか?」

「まあそんな所ですかね」

 美琴は遠目から見ても明らかに『やる気』が感じられた。
 彼女本人は上条に一矢報いる気でいるのだろう。
 だが佐天の目に美琴の姿はまた違って見えた。

「(可愛いなあ御坂さん)」

 美琴が上条に惚れてる事は誰が見ても明らかな事であり、それに気付かないのは当事者達だけだろう。
 もちろん佐天もそれくらいは分かるくらいには美琴との付き合いは持ち得てるし、上条との関わりも得てしまった。
 そして佐天も一種の被虐心を美琴に抱き始める。
 今までレベルがどうこう言われてきた仕返しの気持ちも無意識であるのかもしれない。

 そして、競争は始まった。
 美琴も練習していたのかは知らないが走る速さはなかなか早かった。
 そして「借り物」が描かれた札を真っ先に手を取る。

「あれは?」

「借り物競争ですね。結構難題なんです」

 佐天が五和に解説した直後、美琴は何やらヤケクソ気味の表情で走り出した。
 そして観客席に突っ込んで有無を言わさず連れ去った存在は……

「あっ上条さん」

 美琴はもはやお嬢様らしさのカケラも残ってない表情で強制的に上条の手を握って連れ去っていった。
 あのスピードなら恐らく一位だろう。

「御坂さんやるなぁ……」

 その姿を佐天は見送っていた。

 しかし佐天の隣で明らかに動揺してる人物が居た。

「いっ……今の女の子が連れて行ったのって上条さんですよね!」

「そうでしょうねぇ……御坂さん、この戦いが終わって勝ったら罰ゲームで上条さんと結婚するらしいですし」

 結婚どうこうの終盤部分は佐天の捏造である。
 だが五和は冗談には受け取らなかった。

「そっそんな……学園都市の子供は不純異性交遊をっ!」

「あははっ。恋バナは女の子の大好物じゃないですか。気持ち悪いオタクの処女信仰じゃあるまいし」

「十字教のマリア様は処女懐胎ですっ」

 佐天の『美琴が(何かに)勝ったら上条と結婚する』というジョークを五和が間に受けて、話がややこしくなっていた。
 だがそこにもっと話をややこしくする人物が現れた。

「なんですって!?御坂さんがご結婚!?」

「こ、婚后さん……」

 そこに居たのは常盤台の大能力者の婚后であった。

「佐天さん……わたくし感激しましたわ。まさか御坂さんがロ澪とジュ律エットなんて……」

「いやよく分からん」

「こうしては居られませんわっ!この戦いには御坂さんのご結婚がかかってる事をみなに伝え、改めて常盤台の団結力を見せなければっ!では佐天さん、失礼!」

 婚后は取り次ぐ暇もなく「勝負に勝ったら御坂は結婚するらしい」という間違った情報を伝えに行った。
 後に残された佐天は面倒な事になったと思ったが、すぐにある事に気づく。

「待てっ。御坂さんが上条さんと結婚したらインちゃん寝取れるんじゃっ!」

 佐天はインデックスが好き。
 御坂も上条が好き。
 誰も損をしない。
 というかインデックス萌えに狂った佐天にとって上条の存在は目の上のたんこぶだ。

 一方、精神的にショックだったのは五和である。

「そんな……上条さんが結婚なんて……」

 魔術師としての実力は(佐天から見れば)かなり高い五和だが、その内実は実に豆腐メンタルだった。
 カミジョー属性の犠牲者と言えるがさすがに出し抜かれるのはショックが大きいようだ。

 気力を失った五和は上条の手を取った少女の顔を思い出す。
 学園都市に潜り込む際に少しだけ調べた人物だが、あの少女は超能力者の一人だ。
 ただの魔術師である五和は自分が適う道理が無いと『諦めて』しまった。

「それじゃ……さよなら涙子ちゃん……」

「あっ五和さーん、行っちゃった……」

 佐天は五和が去って行くのを見送る事しか出来なかった。改めて佐天は自分の失言に気づいたが既に遅かったようだ。


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