9月14日。
 テレスティーナ・木原・ライフラインとの抗争からおおよそ一ヶ月後。

 御坂美琴の孤独な戦いは続いていた。
 インデックスによって破壊された「樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)」の「残骸(レムナント)」を巡った御坂美琴と結標淡希の抗争。
 その戦いの背景にいる『元最強』の能力者、一方通行(アクセラレーター)は、既に上条当麻との戦いの影響か変心していた。
 「最初から実験など繰り返されない」にも関わらず御坂美琴と結標淡希は戦う。


 そんな不条理なお話の渦中で、奔走する者達がいた。


 学園都市のハッカー・初春飾利は、打ち止め(ラストオーダー)との出会いを無駄にしないため。

 風紀委員(ジャッジメント)の少女・白井黒子は、敬愛する美琴の理想を助けて結標淡希に借りを返すため。

 魔術師(アンジェレネ)を殴り倒した少女・佐天涙子は、インデックスへの愛を勇気へと変えて美琴に説教をかますため。


 彼女らは三者三様の想いを抱き、緊迫の戦場へと向かう!そこで待ち受けていたものとは…。


 〜〜〜〜〜


 ―――初春飾利はジャッジメントの支部でパソコンを弄っていた。

 本来、彼女が結標淡希の事件に関わる動機は無いし、黒子にも「これは警備員(アンチスキル)に任せておけば良い」とも忠告した。
 実際、結標淡希を支援している組織は今まさにアンチスキルに潰されようとしている。

 アンチスキルを指揮している黄泉川愛穂はやや根性論を気に入りがちな熱血教師の女性ではある。
 だが黄泉川は、彼女なりに子供達を傷つける行為に対しての憤慨を抱く真っ当な方の大人である。
 彼女達に任せておけば結標を利用してる組織も潰れて平和な日常が戻るはずだ。結標も自分たちも。

 だが黒子や佐天にとってはそういう問題ではないのだろう。
 黒子(空間移動)は結標(座標移動)と、佐天(無能力者)は美琴(超能力者)と、それぞれ絶望的なスペック差の相手に『喧嘩』を挑もうとしている。

「だから女の熱血なんて流行らないって言ったのに……白井さんも佐天さんもおバカなんだから」

 初春はそう言いつつも女には負けると分かっていてもやらなければいけない事もある事が分かっていた。
 しかしこの状況、自分たちだけで解決するのは難しいかもしれない。
 であるのならば、あの佐天さんを熱血の道へ導いた人物にこそ責任をとってもらうべきか。

 ―――上条当麻。

 無能力者でありながらありとあらゆる幻想をぶち殺す右手を持った少年。
 初春は自身の携帯に彼の電話番号を入力した。
 初春は上条と接点は無いが、そんなものは調べればいい。

「……あ、もしもし? 上条当麻さんですか……」

 その携帯の電話番号を調べ上げるなど、初春にとっては朝飯前である。

「いやぁ。ジャッジメントの者なんですけど……え?違いますよぉ。でも貴方のせいで佐天さんは熱血変態になるわ白井さんに私がやつあたりされるわ……ああ、はい、知り合いですよぉ。お客さんですか? ……御坂さんの妹さんですか。え、ああはい。知ってますよぉ。それなら話は早いですね。ええ、色々と」


 〜〜〜〜〜


 ―――白井黒子は、高層ビルのレストランで結標淡希と相対していた。

 ご丁寧に先ほどの敗戦で受けた箇所に鉄矢をぶち込んでやっている。
 その気になれば脳みそや心臓にぶちこむ事も出来るが、それをやる気は黒子にはない。
 ついでにスペック差を埋める勝算もあまりない。

 それでも女には負けると分かっていてもやらなければならない時がある。
 黒子は結標をにらみつけるが、結標はまだ余裕の表情だった。

「そう言えばあの人のビルを往復していた時、こんな話を聞いたわ……」

 結標は傷を負いつつも世間話を続ける。
 だがそこに出てきたのは予想外の人物だった。

「佐天涙子……という女の子を知ってるかしら」

「佐天さん……?まさかお姉様だけでなく佐天さんも残骸(レムナント)と関わりが!?」

「いや無いわ。これとそれは別の話よ。そうねぇ……『魔術師』というコードネームで呼ばれてる能力者……そう、外で開発を受けてる能力者の事よ」

 黒子も『魔術師』の実在については表面的には認知している。
 新学期が始まった日、学園都市の外部からテロリストが襲撃して来た事件があった。
 黒子はそのテロリスト(シェリー・クロムウェル)と交戦したが、シェリーの操るゴーレムの奇襲によってテレポートを上手く扱えず追い詰められた。
 その際も美琴に助けてもらったのだが……。

 黒子は学園都市の外は文明が遅れてると思っていたが、能力開発に関しては侮れないと認識した事件である。
 だが一体それがどうしたのだろうか、と黒子が疑問に思うのを見て、結標は意地悪く話を進める。

「その涙子って子、その『魔術師』を殴り飛ばしてしまったらしいわよ。で、大騒ぎ」

「……は?佐天さんが能力者を倒した……ですの?」

 黒子には先ほどから結標が何を言っているか理解出来なかった。
 そうした姿が結標にはよほど滑稽だったのだろうか。構わず結標は話を続ける。

「いつもビルに入ってるイケメンやグラサンシスコンが話してたわ。その涙子って子、アニューゼだがクギューゼだかそんな連中との抗争に巻き込まれたらしいわ。
 一種の武闘派組織かしら。そいつの部下のチンピラだかなんだかを殴り飛ばしたらしいわね。学園都市の基準で行けばどこまでのレベルかは知らないけど」

 黒子は知らないが、結標の語る事は真実だ。
 佐天は能力開発を受けた学園都市の生徒でありながら、魔術師アンジェレネを殴り飛ばした。
 その上で佐天は天草式の五和との交友も持ちえた。

「でも何故かは知らないけど、本来、能力者が魔術師を倒すのは許されないそうよ。それが無能力者であっても」

 そして結標は皮肉的な表情で黒子を煽る。

「魔術師を倒せなかった貴女と、魔術師を倒してしまった涙子ちゃん。さて、本当に凄いのはどっちかしらね」

 それは佐天>黒子という不等号の皮肉だ。
 だが黒子も実に嫌らしい悪役スマイルでこう返してやった。

「決まってますの。佐天さんですのよ」

「なんですって?」

 結標からすれば予想外の答えだった。
 黒子もその反応を見たくてのハッタリではあったが佐天を同じ淑女として認めているのは事実だ。

「その佐天さんが今どこに居るかお分かりになりまして?」

「は?」

「今ごろ、佐天さんはお姉様にお説教中ですのよ」


 〜〜〜〜〜


―――佐天涙子はとある鉄橋にて御坂美琴と相対していた。

「さ、佐天さん……」

 美琴は思わぬ人物が立ちはだかる光景に多少戸惑った。
 だが美琴は出来る限り平静を保とうと語りかける。

「どうしたのよ、こんな所で……早く帰らないとチンピラに襲われるわよ」

 実の所、美琴は誰も巻き込みたくないのである。本当なら上条当麻や白井黒子ですら、だ。
 その二人よりも弱いと美琴が思ってる佐天を巻き込む事は美琴のプライドが許さないのだろう。
 だが佐天はその心境を読んでか読まぬか決定的な一言を返す。

「白井さんは今、結標淡希という人に喧嘩を挑んでます」

「っ!?」

 美琴も考えが甘かった。
 既に黒子は結標との交戦でダメージを負った事で巻き込んでしまっている。
 となれば当然に初春にも状況が伝わっているだろう。
 黒子→初春→佐天という流れで、つい何かの手違いで状況が伝わっても不思議ではないはずだったのだ。

「そう……だったらどいて。黒子を巻き込んだ責任は私がつける」

「いえ、どきません」

 美琴の説得にも佐天は動じなかった。
 ここでどいたら『何か』から逃げてしまう。
 黒子との約束を破るだけでなくて、ここで退いたら美琴よりも『向こうに居る誰か』へ届かなくなる。
 そんな気がしたのだ。

「そう……」

 美琴は何かを諦観したのか、懐からコインを取り出した。
 それを見て佐天は次に美琴が何を放ってくるのか理解する。

「知ってるでしょ。私のレールガン。佐天さんも今まで何回か見たことがあるだろうけど……こういう事よ!」

 そして美琴は、佐天へ向けてコインをはじいた。
 それは美琴の10億ボルトの電流によって破壊力を増した状態で、佐天の横を通り過ぎる。

 あくまで威嚇だ。佐天にダメージは一切ない。
 しかしコンクリートをえぐる破壊力を間近で見たのは佐天ですら初めてだ。

 AIMバーストになってた時を除けば、実際に美琴が佐天の方へ向けてレールガンを放つのは初めてだったからだ。

「これで分かったでしょ。いくら佐天さんだからって容赦しないわよ」

 美琴はいつになく強い視線で佐天を睨みつける。
 実際、美琴も余裕がないのだろう。
 黒子が巻き込まれて戦ってるのを踏まえれば尚更だ。

「いえ、どきません」

 しかし佐天は踏みとどまる。

「そう……じゃあ次は殺す気でいくわよ。それが嫌ならどきなさい、佐天さん」

 美琴が本気になれば佐天をいつでも殺せるのは事実だ。
 それくらいの格差が両者にはある。
 しかし佐天は美琴のそれを鼻で笑う。

「殺す?いやいや御坂さんにゃ出来ないですよね」

「なんですって……?」

「御坂さんってば甘っちょろいじゃないですか。本気でレールガンを生身の人間に撃てるとは思えないんだけどな〜」

 最初からみんな分かってる。これだけの力があった所で御坂美琴は誰かを殺した事はまだ一度もないのだ。
 黒子もそれを知っている。恐らくあの上条当麻もそれを信じていたのだろう。
 それを佐天が知らない訳がない。分からないはずがない!

「だったら教えてあげるわ、佐天さん。私は1万人もの人間を殺したのよ!」

 尚も弁解をする美琴。
 それは1万人のクローンの事だ。
 しかし佐天は尚も気にせず美琴の方へ前進する。

「そんな妄言知ったこっちゃないですね」

「妄言じゃない!それに結標を止めなきゃいずれあの子達も黒子もみんな死んじゃうのよ!」

「白井さんなら大丈夫です。あの子は淑女ですから。それにテレポーターにムーブポイントによるワープは効かないそうですし」

 佐天は既に美琴へ手の届く所まで近づいていた。
 本気で美琴が能力による攻撃を続けていればここまでの肉薄は許さなかった。
 美琴の甘さに付け込んだ接近である。しかしそれで十分だ。

「やめてよ……」

 そして美琴は振り絞って叫ぶ。

「やめてよっ! 佐天さんが私に敵うないじゃないっ!」

 次の瞬間―――美琴の顔面に拳が突き刺さり、彼女の体が浮き上がる。
 何が起きたか分からず美琴はうめく。

「……ぐあっ!」

 超能力が日常となってるこの学園都市においては、あまりに原始的な攻撃方法。それがパンチ。
 しかしその拳は確かに学園都市で最強と謳われる超能力者の一人を数メートル程ふっ飛ばしていた。

「殴った……あのバカにも殴られた事無かったのに」

 何が起こったのか分からない美琴。
 だがその答えは確かにそこにある。

 佐天が美琴を殴り飛ばしたのだ。



 佐天はその自分自身の行動をどこか冴え渡る頭で俯瞰する。

 1ヵ月前までは美琴を殴り飛ばせるだなんて思ってなかった。
 でも今はこうしてブッ飛ばしている。

 誰の影響か? 決まっている。

 美琴の言うあのバカ……上条当麻のせいだ。

「いいぜ!てめぇが人んちで暴れるってんなら……まずはっ!」

 初対面、ふとしたことから佐天に向けて顔面グーパンを仕掛けようとして来た上条。
 その理不尽さと出会ってしまえば、佐天だってそれくらいやる。

「インデックスがイカ娘に似てる? ああ、そうだ。インデックスもイカ娘も白いからな」

 ああ、そうだ。インちゃんだ。
 例え他の人がどれだけインちゃんをウザいと思われようと、佐天はインちゃんを愛し続ける。

 何故かって?だって可愛いじゃない。

「だからお前がインデックスを好きになっちゃいけない幻想なんて無いんだよ、佐天!」


 そうだ。佐天がインデックスと仲良くなっちゃいけない道理なんてない!
 インちゃんはウザくなんてない! インちゃんは可愛い! 必要な存在なんだ!
 それを馬鹿にするのならいいよ。そのふざけた幻想は殺す!
 ヤンデレ染みた思想へ至った佐天は、ただ笑う。

「御坂さん……神様って信じますか?」

「……へ?」

 佐天は立ちあがった美琴に問う。

「神様がね、言うんですよ。『見えたぞ!エンディングが』って……。でも私は悪魔じゃないから駆け魂なんていらないし、なんなのかなぁって」

「さ、佐天さん……?」

「そしてある日思ったんですよ。このエンディングというのはつまり上条さんにとってのインちゃんEDなのかなぁって。だってインちゃんって可愛いからメインヒロインっぽいじゃないですかぁ。そりゃ上条さんはインちゃんとくっつくだろうな〜ってEDが見えたって神様も言ってるんです」

「佐天さん……あんた、それだけあのインなんとかの事を……」

「インなんとかって言いましたね!インちゃんです!訂正してください!」

「い、いやそんなに怒らなくても……」

 美琴は直感した。
 佐天さんは上条やインなんとかとの出会いによって壊れてしまったと。
 黒子ですらメリハリはついてる。だが佐天にはそれが無い。

 一か月前まではこんなんじゃなかったはずなのだが、人間よく変わる物である。

 そして美琴は直感した。

「不良どもの料理法」を使ってでも佐天さんを止めねばならぬと。

 なんか佐天さんマジヤバイと。


 佐天からしても今の美琴は既に絶対的な強者ではなかった。
 ぶっちゃけ上条の方が強いらしいし。
 そして今、佐天が本当に追いつきたいと思う相手も美琴ではなく上条なのだ。
 佐天が美琴から退けない理由は、美琴の暴力から逃げて上条からインちゃんを寝取るなど無理だと知ってるからだ。

「御坂さん……いや御坂美琴!私はあなたを超えて行く!」

「佐天さん、少し頭冷やしなさいよ!」

 飛びかかる佐天に対し、美琴は電撃を浴びせる。
 だが佐天は倒れない。
 ここで倒れたら今まで掴めなかった物へ手が届かないと知ってるから。



―――そして『喧嘩』が始まった。御坂美琴と佐天涙子の初めての『喧嘩』が。



第7話「とびっきりの最弱(佐天涙子)VS最強(御坂美琴)」


 Bパートへ続く



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