前回

第3話「佐天さんと天草式を交差させてみた」

時に九月八日。
人々の求めるモノ。
すなわち、オルソラ・アクィナスの争奪戦は続いていた。
だが、その全てを記すには、あまりにも時間が足りない。
よって今は、佐天涙子という名の少女。
彼女の心の補完について語ることにする。


〜〜〜〜〜


 その後、五和と佐天は「ネセサリウス」がインちゃんと赤いロリコン神父(ステイル)である事を知る。
 アニェーゼ達は二人を利用してオルソラを捕獲しようとしていたのだ。
 そこに現れた上条当麻は不幸にもオルソラを連れていたのである。

 佐天と五和はアニェーゼ部隊に利用され天草式と戦わされる上条やインちゃんを止めようとするも、250人体制のアニェーゼ部隊の絶対包囲網によって真実を伝える事は適わなかった。
 その隙に建宮はオルソラを奪還するが、彼もまた上条達の事を敵であると誤解していた。

 天草式にも上条達にも接触出来ず、遂にはアニェーゼ部隊&上条達VS天草式の戦いが始まってしまう。
 上条とステイルの連携する事で建宮は撃破されてしまい、二人はオルソラをアニェーゼに引き渡してしまう。
 また他の天草式の仲間達も捕まってしまった。

 追撃が始まる中、佐天と五和もアニェーゼ部隊に追い詰められてしまう。
 五和は無双するが、佐天を人質に取られた事で手も足も出ず捕まってしまった。

 連行されていく五和と佐天。
 しかしそれを救ったのは真実を知らされたステイルとインデックス、そして仲間達とオルソラを救おうとする建宮だった。
 発狂した佐天はインデックスに抱きつく。

「インちゃ〜ん」

「離れるんだよ!」

 佐天はインデックスの手を引いて学園都市に連れ帰ろうとする。

「インちゃん。学園都市に帰ろ」

 ステイルもそれには同意した。
 インデックスの力は欲しいが、出来れば危険な場所へは近づいて欲しくないのだろう。
 だがインデックスは断った。

「どうせとうまは先に行ってるに決まってるんだよ」

 上条・インデックス・ステイル・天草式。
 みんなこんなつまらない結末で終わらせる気は無かったのである。
 本来、無関係の佐天はこの場に居ても仕方がないはずだった。

「私もインちゃんと一緒に行きます!」

「うん、一緒に行くよ! るいこ!」

 しかし佐天もまたこの「不条理なお話」に参加する事になった。

 〜第3話「佐天さんと天草式を交差させてみた」完〜


 〜第4話「佐天さんが魔滅の声を聞いてみた」〜


 上条はオルソラ教会にて黒いシスター達と対峙していた。
 「法の書を読んだ」というそれだけの理由でリンチされているオルソラ・アクィナスを救う為に迷わずアニェーゼ・サンクティスの顔面を殴り飛ばした。

「き、サマ、何の真似だ、これはァーーーーーーッ!!」

「何をすべきか、だと? なめやがって、助けるに決まってんだろうが!!」


 次に現れたのは歯を剥き出しにし、アニェーゼ達への怒りを見せるステイルだった。

「それに何より、よくもあの子に刃を向けてくれたものだ。この僕が、それを見過ごすほど甘く優しい人格をしているとでも思ったのか?」

 ステイルは彼なりに今でもインデックスの事を大切に思っていたのだった。


「お前さん、想像以上の馬鹿だよな。ま、見ていて楽しい馬鹿は嫌いじゃねえが」
 建宮は呆れたように答える。
 その後ろには五〇人以上の天草式の総勢が並んでいる。
 これでも敵との戦力差は1:5。
 だが2人で250人と戦うよりはまだ希望が持てるだろう。


 そして腰に手を当てた白い少女が上条の背中越しに呟く。

「まったく、だから決着は誰かが着けるから、とうまは気にしなくて良いよって言ったのに」

「いん、でっくす……」

「でも、こうなっちゃったら仕方がないよね。――助けよう、とうま。オルソラ・アクィナスを、私達の手で」

「ああっ!」

 そして最後、ここに場違いな少女も居た。

「ふっ、私も居ますよ。上条さん!」

「お前は……佐天!」

 そこに居たのは『上条と同じレベル』の少女、佐天涙子だった。
 上条は納得したように頷く。

「そうか、お前もつまんねえ終わり方にする気はねえって事か!」

「ここまで来たなら地獄の底まで行きますよ!」

「地獄の底だと……? 違うぜ、佐天。地獄の底へ行くんじゃねぇ……地獄の底から引きずりあげるんだよ!」

「はいっ!」

 猛る上条に佐天も同調する。
 一体どうしてこうなったのかは佐天本人にも分からない。
 しかしオルソラを巡った戦いの中に佐天涙子は確かに居る。
 金属バッド片手に。

 そんな彼らの姿を見て、アニェーゼ・サンクティスは爆発した。
 殺せ、というただ一言の命令の下、闇に染まる数百ものシスター達が跳ねるように襲いかかってくる。

 最後の戦いが始まった。
 不条理なお話に決着を着けるために集まった者達の、最後の戦いが。


 〜〜〜〜〜


 佐天は金属バッドを片手にシスター達に戦いを挑むものの、ゾンビのようなシスター達に次第に追い詰められていく。
 しかし五和は佐天や上条をフォローすべく槍で奮戦する。

 インデックスは「魔滅の声(シェオールフィア)」でシスター達に無双を仕掛けるが、ルチアの指令に応じたシスター達は万年筆を使ったダイナミック☆耳栓を発動させて無効化する。

 敵に追い詰められるインデックスを見た佐天は取り乱して彼女の元へ駆け寄ろうとする。

「インちゃんが危ない!」

 だが五和はそれを制止した。

「涙子ちゃん、ダメっ!」

 次の瞬間、佐天の眼の前に鉄球のような硬貨袋が落下した。それを放ったのは三つ編みのそばかすシスター・アンジェレネだ。

 五和が止めなければ佐天は鉄球のような硬貨袋に頭を砕かれていただろう。

「あ、ありがとうございます。五和さん……」

 しかし五和は表情を緩めない。敵のシスターがこちらを狙って来てるのが分かるからだ。

「新手……ですか!」

 アンジェレネは見るからにビクビクしていた。
 だがしかしそれでも瞳には確かな殺意を灯して叫ぶ。

「見て下さい!インの人は恐ろしい侵略者です!シスター・オルソラなんかよりもよっぽど恐ろしい怪物!彼女は法の書だって記憶しています!今ここで仕留めて置かなければ科学も魔術も滅茶苦茶です!」


 〜〜〜〜〜

 佐天が「長月早苗」という少女と精神が入れ替わり早苗の抱いていた「イカのような娘」に対する狂気的な愛情を佐天も引き継いだのと同じく、
 アンジェレネもまた「イカのような娘」を見たことで狂気に陥った人物と入れ替わっていた。

 アンジェレネと入れ替わった人物は「斉藤渚」という少女である。
 渚は早苗とは違い「イカのような娘」に対して恐怖心を抱いていた。
 その恐怖心をアンジェレネもまた引き継ぎ、正気を失っていた。
 イカの人は危険だ。むろんインの人も危険だという思想を引き継いでいたのである。

 〜〜〜〜〜

 恐怖に突き動かされるアンジェレネに対し、佐天は静かに語る。

「いいよ。シスターさん……貴女がインちゃんが人類と分かりあえない侵略者だって言うなら……ぶち殺しますよ!」

 そして佐天は駆け、アンジェレネに対し金属バットを振り下ろす。
 だが、その一撃は硬貨袋で防がれ鍔競り合いの態勢となる。

 脅えを捨てきれないアンジェレネに対し、佐天は確信する。

「(やれる……この子、大したことない!)」

 よく考えれば上条だって学園都市の喧嘩殺法で立ちまわってるのだ。
 相手が人間である以上、押しきれない道理はない。

 佐天は金属バッドを捨て、握り拳を作る。
 鍔競り合いが解かれたアンジェレネは一気に態勢を崩す。

「ひっ!」

 それはイカのような娘に似た、白い魔道図書館に対する狂気と狂気の決着。

「私のインちゃんを馬鹿にするなぁっ!」

 そして佐天の拳がアンジェレネの顔面に突き刺さり、数メートルふっ飛ばして、終わった。

 アンジェレネは一瞬だけピクピクしていたがすぐに動かなくなって気絶する。

 この瞬間、佐天涙子は『魔術師を倒した能力者』の二人目となった。
 魔術師を能力者が倒すという事は本来は合ってはならない出来ごとなのだ。上条当麻を除いて。

 だがアンジェレネを倒した所で敵の総勢は250人以上だ。
 いずれはジリ貧になって追い詰められる。

「よくもシスター・アンジェレネをォ!この異教徒の豚がァ!」

 上空から車輪に捕まって舞い降りてきたのはアンジェレネにスカートをめくられていたシスター・ルチアである。

 佐天は近場に転がっていた金属バッドを手に取ろうとするが、ルチアは今にも木製の車輪を投げつけてきそうな勢いであった。
 佐天は知らないがあの車輪は投げつけて爆発させる事で数百もの鋭い破片を散弾銃のように飛ばしてくる魔術を使う。
 アンジェレネの魔術よりも危険度は高いと言えた。

「死ねぇ!」

「いや死なせないんだよ!」

 ルチアの怒号に割って入って来たのは、白い少女であった。
 佐天はその白い少女の愛称を佐天は叫ぶ。

「インちゃん!」

 インデックスは佐天を一瞬だけ見やってから、強制詠唱(スペルインターセプト) を発動させる。
 敵の魔術のコントロールを奪う強制詠唱(スペルインターセプト)。
 それがルチアの車輪にも適用され、車輪は見当違いの所へ吹っ飛んで行く。

 「う……ぎゃあああっ!」

 そしてルチアは見当違いの所へ放り出されて倒れた。
 魔滅の声が効かなくても戦いようはいくらでもある。

「イ……インちゃ〜ん!」
 佐天はインデックスに抱きついて頬を合わせてすりすりする。
 これでもただの女子中学生だ。怖くないはずがない。
 しかしそれ以上にインちゃんに抱きつきたいという欲求の方が上回ってるのかもしれないが。

「るいこ……話を聞いて欲しいかも。オルソラの解読法を使って私の頭の中にある法の書を読もうとしたけどオルソラの解読法は偽物だったんだよ」

「インちゃん……何言ってるか分かんない……けど可愛いわインちゃぁん……」

「るいこに説明した私が馬鹿だったんだよ!」

 インデックスは部外者である佐天に説明しても仕方ないと感じた。そもそも上条だって恐らく半分は理解してないだろうし。

「るいこに言っても仕方ないから……そっちの天草式の人に説明するね」

「えっ……」

 インデックスは戸惑う五和に説明する。

「仕方ないから最後の手段として魔女狩りの王(イノケンティウス)を発動させるんだよ。これでも玉砕覚悟で向かわれればやられちゃうかもしれないけど、何もしないよりはマシ。上手く天草式の魔術で増幅させればこの状況を逆転出来るかも」
 そしてインデックスはルーンの御札を五和に手渡した。

「これですか?」

「うん、これで他の人達と手分けして貼って行ってオルソラ教会を魔法陣に見立てて欲しいかも」

 そう言われても本当に上手く行くかは分からない。
 オルソラを助けようとはしたが、敵との戦力差は圧倒的だ。
 そして五和は呟くように絶望の声を絞り出す事。

「む、無理ですよ……こんなことしても本当にこの状況がよくなるか分かんないじゃないですか!もし向こうが特攻を仕掛けてきたらそれで終わってしまうかもしれないんでしょう!?」

「うん、確実じゃないんだよ……」

「だったら……どうしようもないじゃないですか!」

「五和さん……」

 いきなり弱音を吐きだした五和の姿を佐天とインデックスは黙って見つめる。
 先ほどまでアニェーゼ部隊のシスターと対等に渡り合って来た人物とは同じに見えなかったのだ。
 だがそれも五和という少女の本質なのかもしれない。どれだけ強くてもその素はただの女の子なのだと佐天は直感する。

 しかしかける言葉もない。
 そんな所に一人の少年が姿を現す。

「何やってんだよ、お前ら……」

 その少年の名は上条当麻。
 学園都市では佐天と同じレベルとされる少年であった。


 第5話へ続く


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