第0話 最弱VS最弱


 深夜明け。
 学園都市の夏休み最後の日である八月三十一日も過ぎ、既に九月一日になる時間帯である。
 一応、不幸という事になってる無能力者の少年、上条当麻。
 彼は「上条勢力」なる謎の電波を飛ばすアステカの魔術師やらツンデレのオッサンやらとの交差を経て、疲弊していた。

『ま、夏休みの宿題は諦めるけど……いや、諦め……ちょっと待て。なぁ、出発する前に宿題持ってきて良いか?』

 とかちょっと未練を残しつつも、とりあえず目の前の困ってる人を助けなきゃ気が済まない上条は襲撃して来た魔術師の闇咲と共に学園都市を出た。
 厳重に出入りを警備されてる学園都市から出るには多少荒っぽい方法に出たがアンチスキルに追われる上条と闇咲。
 なんとか学園都市を脱出した上条と闇咲は病院の女性の呪いを殺す事に成功。
 そして闇咲に春が来た。

 問題はその後だ。
 心身共に疲弊しきった上条は闇咲に送られて住んでいるアパートへ帰って来た。
 後は自室で新学期に備えて寝るだけ……。

 なのだが、どうも様子がおかしい。
 部屋の明かりが付いていて上条家の一室に人影が二つ見える。

 灯りが付いている事や人影が一つだけなら問題はないのだ。
 上条はとある居候の少女を匿っている。彼女は危なっかしい所はあるが、道に迷う事はないはずだからだ。
 しかし人影が二つなら話は別か。
 チンピラによる空き巣か、あるいは居候を狙う魔術師か

「くそっ。待ってろ、インデックス!」

 上条は考えなしに駆けだし、家の扉をあける。
 鍵はかかっていない。そして玄関には見知らぬ靴が1セット。
 つまり何者かが入り込んでるということだ。

「だ、誰ですか! こんな夜中に・・・」

 奥から出てきたのは長い黒髪の少女だった。恐らく中学生だろう。
 どこの制服かは分からないが一つ分かる事は彼女が金属バットを持ちこんでいる事と、いきなり振り回して来た事だ。

「おわっ!」

 振り下ろされる黒髪少女のバッドを寸前で回避する上条。
 実体武器に対しては彼の幻想殺しも通用しない。
 だが上条は咄嗟に少女の顔面を殴り飛ばすべく拳を握る。

「いいぜ!てめぇが人んちで暴れるってんなら・・・まずは!」

「とうま!だめなんだよ!」

「へ?」

 奥から出てきてインデックスに呼び止められ、思わず上条の動きが止まる。
 だが謎の黒髪少女は尚もバッドを振り続ける。

「私のインちゃんを馬鹿にするなぁ!」

 そしてバッドの直撃を食らった上条は、

「ふ、不幸だ……!」

 といつもの台詞を吐いてから倒れる。
 上条は犠牲になったのだ。不幸の犠牲に。


「まあ……なんだ。こっちも気が立っててさ。悪かったよ」

「あ、はい。お気遣いなく」

 バッドで殴打されて一瞬だけ天国を見かけた上条だが、その卓越した謎耐久力故にすぐに起き上がって侵入者の少女と話をしていた。
 どうも空き巣でもなければ魔術師でもないらしい。

「るいこはねー。とうまの家に帰る途中に出会って、美味しい物をいっぱい作って食べさせてくれたんだよ。ねー、スフィンクスー」

 解説になってるのかなってないのか分からないが、この黒髪中学生との馴れ初めを語ってくれた。


 インデックスが家に帰る途中、こんな光景を見たらしい。

「うーいはるぅー。今夜も寝かさないゾっ!」

「ひゃあっ!さ、佐天さん。夜中にスカートをめくらないでください!」

 このスカートをめくられてる人物はジャッジメントらしい。

「ちょっと待て!おかしいだろ、それ!」

 上条が会話の横やりに入る。

「なんでジャッジメントのスカートをめくってんだよ!俺が知るジャッジメントというのは……あれだ。ルームメイトのビリビリお嬢様のベッドにもぐりこんで匂いを嗅いでるような変態だぞ!」

「あ、それ白井さんですよね。一応友達です」

「やっぱ変態仲間じゃねえか! そういうのは止めた方がいいと上条さんは思うのですよ!」

 そこでインデックスは迷子として補導された。
 ジャッジメントの支部でお菓子と牛乳を御馳走になり、また家まで送ってくれた上に色々とインデックスの為に料理を作ってくれたらしい。

「るいこはいいひとなんだよ」

 インデックスは敵の魔術師ではない且つ飯を食わせてくれる人は誰でもいいようだ。

「まあよくわからんがインデックスが世話になったのは確からしいな。さっきは悪かったな」

 ただインデックスがこの少女に世話になったらしいのは確からしいので礼を言っておく。

「いえいえ。じゃあ、またねーインちゃん」

「また来るんだよー」

 そしてバッドを持った少女は帰って行った。彼女の名前は佐天涙子と言うらしい。


 帰り道。
 少女は親友に電話をかけた。

 トゥルルルルー。

「どうしたの、佐天さん。流石にこの時間に電話ってのは寮監に見つかるとまずいんだけど……」

「御坂さん……私、白井さんの気持ちが分かりました」

「……は?」

「イカちゃんに似た子って、本当に居るんですね」

「ちょ、佐天さん!?」

 笑っている。今が愛おしくて、一人じゃないと思った。 はじまりは全て偶然で、それは奇跡の巡り合い。  

 次回予告
 遂に邂逅するインデックスと御坂美琴。
 しかしその場に居合わせた佐天の本領が発揮される。
 はたして佐天はインデックスに何を見るのか。

 禁書目録と超電磁砲が交差する時、物語は始まる。


第1話 禁書娘(インムスメ)

 これまでのあらすじ
 上条さんが闇咲のオッサンを助けた後、インデックスを放置した。
 その後、上条さんが帰ってきたら謎の女子中学生に金属バッドで殴られた。
 一体どういう事なのか?


 9月某日。美琴は佐天と公園でアイスを食べてた。

「御坂さん。イカ娘って知ってますか?」

「あー、ニュースでやってたわね。どっかの学園都市の外の海の家で働かされてるんだっけ?」

「私イカちゃん大好きなんですよね!」

「えー、なんかどっかの白いシスターを思い出すんだけど」

「可愛いからいいんです!」

 イカ娘の話をしてたら、そこに猫を連れた白いシスターが通りすがったのだ。

「あ、短髪。お腹空いたのにとうまが居ないから何か食べさせて欲しいんだよ」

「出会い頭にそれかい!」

 彼女の名前はインデックス。
 美琴とは新学期早々起こったとある事件で知り合った関係である。

「あ、その猫……」

 美琴はインデックスの連れている猫に目が向いた。
 ビリビリ静電気のせいで動物には嫌われがちの美琴だが、実の所は可愛い物好きである。

「名前なんだっけ?」

「スフィンクスなんだよ」

「ちょ、ちょっと触ってもいいかしら。アイス一口食べてもいいから」

「分かったかも」

 次の瞬間。大口を開けたインデックスによって美琴のアイスが一口で食われていた。
 だがそれも気に留めず美琴はスフィンクスを思いっきり抱きしめる。

「愛しい奴めー。あー、癒されるわー」

「本当癒されますよねー」

「え?」

「インちゃん♪」

 顔をあげると佐天がインデックスに抱きついてた。

「そ、そんな奴のどこがいいのよ!?」

 まさかの佐天×インデックスに困惑する美琴、そしてスフィンクス。
 だが佐天は平然と言い放つ。

「たしかに初春のスカートは可愛いけど…私にとっては友達としての愛しさだもの」

「いやなんで初春さんの話になるの!?」

「これは……恋?」

「変の間違いじゃないの」

 状況に混乱する美琴に間髪いれずにインデックスが割って入る。

「るいこは私にお腹いっぱいエビを食べさせてくれたんだよ。だからいい人かも」

「いや、その説明はよくわからん」

 だが最近エビが好きな存在が居たことを思い出す美琴。

「(はっ!まさか佐天さん……このインなんとかをイカ娘と被らせて……)」

 イカ娘はエビが好物である。
 インデックスはイカ娘に似ている。
 そして佐天はイカ娘が好きらしい。

「さ、佐天さん……これはイカ娘じゃないのよ? インなんとかなのよ!」

 そう、何度も言うがインデックスはイカ娘ではない。
 だが佐天はインデックス≠イカ娘という現実を突きつけられ、まるでレベルなんて関係ないと言われたように落ち込んでいた。

「そう……ですよね。インちゃんはイカちゃんじゃないんですよね」

「は?さ、佐天さん」

「分かってたんです……イカちゃんとインちゃんは別固体だって」

 今にも泣き出しそうな佐天を庇うかのようにインデックスが牙を剥けて美琴を威嚇する。

「短髪!私はイカじゃないんだよ!」

「分かってるっつーの!あんたシスターじゃん!」

 もはや何がなんだか分からない。もはやヒーローが場を収めてくれる事を祈るしかないのか?

 だが学園都市には(美琴視点による)ヒーローが居た。
 ありとあらゆる幻想をぶち殺す右手を持った無能力者。
 そう、奴の名は上条当麻。

「何やってんだ。お前ら……」

 上条がその場に介入した時、本当によく分からない状況に陥っていた。
 だが見過ごせないのも上条の”属性”である。

「あ、これはなんでもないのよ!そう、あんたには関係ないんだから」

「いや上条さんは全部話を聞いてたぞ。いつ飛び出すか迷ってた所だ」

 上条は、はぐれたインデックスを探していたが、見つけたのが佐天がインデックスに抱きつき始めた頃だった。
 美琴達にどう話しかければ良いのか分からなかったらしいが、なんか空気が不穏になった所で彼の血が騒ぎ出したらしい。

「佐天。お前はおかしくねえよ…」

「え?」

「おかしくねえってんだろ!」

 そして上条は叫ぶ。何か見えない幻想と戦うように。

「インデックスがイカ娘に似てる? ああ、そうだ。インデックスもイカ娘も白いからな。むしろ地上を侵略しに来たイカ娘より、インデックスの方がよっぽど凶暴だと上条さんは思う訳ですよ!だがそれがどうしたってんだ。イカ娘が好きだからインデックスを好きになってもおかしくねえだろ。だからお前がインデックスを好きになっちゃいけない幻想なんて無いんだよ、佐天!お前はイカ娘に抱きついてる変態女子高生と声が似てるじゃねえか!それだけで十分なんだよ!お前がインデックスを可愛がる理由ってのは!」

 だが佐天は反論する。その声はとても弱々しかった。

「で、でも……御坂さんの言う通りなんですよ。イカちゃんとインちゃんは別物なんです。私も早苗ちゃんじゃありません。仕方ないんですよ」

「早苗になれない……だと?だったらてめぇもそんなふざけた常識に囚われなきゃいいじゃねえか!」

「はっ!」

 そう、今まで佐天は常識に囚われていた。
 それは「超電磁砲(レールガン)」を中心とした4人でビリッと解決しなければいけないという常識だ。
 しかしそれこそが幻想ではないのか。
 佐天がインデックスを可愛がる事が許されないなんて、そんなふざけた幻想はあるのか?
 いやない。そんなものある訳がない。あったとしても今この時点でその幻想は壊された。

「ちょっと意味が分かんないわよ。つーかなんで佐天さんがこの白いのと仲良くなってるわけ? ついていけないんだけど……」

 場の空気を読まず困惑する美琴。
 佐天がインデックスと仲良くなってるという前提で話が進んできたが、その過程が見えない。
 上条は勢いで突きぬけようとしてるが、一体どうしてこうなったか美琴には分からない。

 だがインデックスは聖母のような面持ちで、困惑する美琴をさとす。

「短髪……それ私やるいこから見たら、とうまと短髪の関係にも言える事なんだよ」

「はっ、そ……それは……」

 インデックスや佐天から見たら、美琴がいつ上条にフラグを建てられたか分からない。フラグとは外から見て分かりづらいのだ。

 そして上条はこのいびつな状況を終わらせるべく、最後に一言を語る。

「俺も佐天とインデックスがいつ仲良くなったのかは分からんけど、いいんじゃねえの。インデックスと佐天が友達でもさ」

 そう言って上条は、見えなくなってしまったインデックスの”ともだち”である風斬氷華の事を思い出す。
 風斬は能力者によるAIM拡散力場で具象化していた。
 それは無能力者が無意識で放つAIM拡散力場にも含まれる。
 そして風斬氷華は確かにインデックスの”ともだち”だった。

「これで良かったんだよな。風斬……」

 上条は今も学園都市のどこかに居る”ともだち”に向けて呟いた。
 上条の説教によって勇気を得た佐天は、彼に感謝の意を表する。

「ありがとうございます。私、これからもインちゃんの事を愛で続けます!」

「ああ、ジャッジメントに補導されない程度にな。っつーてもジャッジメントも変態が居るから別にいいんじゃね?」

「はいっ!」

 一体いつから佐天はインデックス萌えになったのか。
 本当に常識に囚われなくなってしまったのか。それは当事者同士にしか分からない。

 だがイカ娘とインデックスの中の人が別人であっても、イカ娘とインデックスが似てる……そのふざけた幻想がまかり通るってんなら、
 佐天が長月早苗の真似ごとをしてもおかしくない。上条はそう言ったのだ。

 インデックスも「ばいばーい、るいこー。後、短髪も」と上条の頭にかじりつきながら手を振って去って行く。

 残されたのは茫然自失の美琴と謎の決意を固めた佐天だけだった。
 佐天は迷いをふっ切った表情で美琴に誇り高く宣言する。

「御坂さん……私、白井さんのような淑女になります!」

「いや、ならなくていいよ」

「あー、もう!御坂さんが上条さんと結婚してくださいよ!そしたらインちゃんが空くのに」

「えっ……何言ってるのよ、佐天さん……」

 美琴はここにきて顔を真っ赤にするのだった。
 実の所、とある事件によって美琴は上条に惚れている。美琴本人は認めていないが。
 インデックスをペロペロしたい佐天と、上条を本心では好いてる美琴の利害は一致している……のかもしれない。

 こうして上条の幻想殺しによって、佐天さんがインデックスと仲良くしてはいけないという幻想は殺されたのだった。

 だが彼女達の戦いはこれからだ!
 まだ始まってすらいねえ!ちっとばっか長いプロローグ坂をのぼりはじめたばかりなんだからよ!



 第2話「佐天さんを魔術と交差させてみた」へつづく


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