こんにちわ。今年桜高に入学した横川茜です。
もうギターは弾きませんけど、軽音部に入部しました。
そして桜高に通う為に今はこのきらら寮に入居しています。
きらら寮の人達は大学生の人が多いですが、私によくしてくれる人達ばかりです。お菓子もくれるし。
「ただいま〜」
「あら。茜ちゃん、おかえりなさい」
この人は立花姫子さん。
見た目はちょっとオシャレでギャル系って感じです。
「これバイト先のローソンでもらった売れ残りの紅茶花伝なんだけど飲む?」
「わぁ〜。ありがとうございま〜す」
姫子さんは外見はちょっとおっかないけど優しい人です。
「これどうしたんですか?」
「んー。なんかアニメだか知らないけどフェアやっててね。午後の紅茶が異様に売れてね。紅茶花伝だけ余ったの」
「紅茶花伝も美味しいんですけどねー」
「あはは。でも軽音部は今でも紬ちゃんのお茶があって、唯の妹さんがそれを淹れてくれるんでしょ?」
「美味しいですよ〜」
姫子さんは普通にいい人です。
「いちごも飲む?紅茶花伝」
「え……やだ。午後ティーがいっぱい余ってるし」
このツインドリルの髪を弄ってる人が若王子いちごさん。
すごく可愛い人だけど姫子さんと違ってクールな人です。
「あれ?その午後ティーってもしかしてローソンで買ったんですか」
「ん……Tシャツですら当たんないけど」
「Tシャツ……?」
携帯を弄りながらいちごさんは答えました
「それ午後ティーを買った分でポイントが溜まるんでしたっけ」
「1缶で1ポイント。20ポイントで5名にギター・ベース・ドラム・キーボードがそれぞれ当たる」
「それはまた……」
なんとも言えないけど、すごいです。
「5名ってどういう事?ギター・ベース・ドラム・キーボードが5名ずつ当たるの?」
姫子さんがちょっと興味を持ったようです。
「いやギター2名、他の3つがそれぞれ1名ずつって感じ」
「へー。いちごはそれ欲しいの?」
「うん、転売したいから」
いちごさんは結構厳しい人です。
「でも午後の紅茶も美味しいよ〜」
この人は平沢唯さん。
前は『中野先輩の軽音部』に居た事のある人で、平沢先輩のお姉さんです。
平沢先輩(妹)は紅茶を淹れてくれる人ですが軽音部のポジションは決まっていません。
「私もローソンで午後ティー集めてみた!」
「なんでですか?」
「楽器が可愛いから!」
「あ、私もそう思います!」
なんだかギターを弾くのが好きな所を除けば私によく似てます。
「楽器が可愛いって……やっぱり唯は可愛い感性してるわよねぇ」
「えへへぇ。そうでしょ〜姫子ちゃん〜」
姫子さんと唯さんは結構仲良しさんです。
話を聞くと高校生の頃は席が隣同士だったそうです。
姫子さん、いちごさん、唯さん、そしてこの私・横川茜の4人が「きらら寮」の入居者です。
ペットボトルの紅茶とコンビニで買ったきのこの山やたけのこの里でお茶会をするのも、このきらら寮の日課になってます。
軽音部の紅茶やお菓子よりは貧相ですが、これはこれで私も唯さんも満足しています。
「んじゃあ、レシートの番号を入れなきゃえーと……」
唯さんはケータイを弄り始めました。
このフェアはローソンで午後の紅茶を買った時に発行されるレシートに数字の羅列が載っていて、それをサイトに登録する事でポイントを得る事が出来ます。
応募の成否はその場で分かる仕組み。
姫子さんは唯さんの携帯を覗き込んでいました。
「お、ポイント溜まってるね」
「えへへ〜目指すは楽器!」
唯さんは20ポイントで5人にしか当たらない楽器のみを狙ってるようです。
「3ポイントのTシャツを6回やった方がいいんじゃない?」
いちごさんも携帯を弄りながら呟きます。
「Tシャツもいいけど、ここは楽器を!」
しかし唯さんは20ポイントの楽器に挑戦するようでした。
姫子さんはその理由に感づいたようで、
「それ、もしかして憂ちゃんの為の楽器?」
「うん、せっかく憂があずにゃんの為に軽音部に入ってくれたんだから、私が楽器を当ててあげるの。ふんす」
「でも憂ちゃんは楽器の素人なんじゃなかったっけ?」
「いや〜憂はすごい子なので、多分なんでもやれると思うよ〜」
そう、平沢先輩はすごい人だ。
トンちゃんの飼い方も知ってるし、美味しい紅茶も淹れてくれるし、ギターもベースもオルガンも弾ける。
まさに唯さんの言うとおりである。
「それじゃ我が妹の為にA賞を目指すとしますか〜」
そして唯さんは気合を込めて携帯のボタンを押した。
「ふんすっ!」
その結果は……
「あ、あ、あ……」
「どうしたの唯。やっぱ外れ……」
「当たった!」
「すごっ!」
私と姫子さんだけじゃなくて、いちごさんも驚いているようだった。
「さすがは軽音部……」
「いや〜それほどでも〜」
唯さんのケータイには当たったことを証明する「キーボード」の画像が映っていた。
たったの5名にしか当たらないローソンフェアのA賞にあたったのである。
〜〜〜〜〜
それから数日後の音楽室。
「じゃ〜ん」
「おお〜!」
憂がシンセサイザー・キーボードを持ちこんだ事に梓と純は思わず驚きの声をあげた。
ケースにハートマークのロゴが付いている所を除けば中々の上等な奴である。
「すごい。これどこで買ったの?」
「お姉ちゃんが懸賞で当てたんだってー。それで私にくれたの」
「唯先輩って、土壇場での幸運がものすごいからねぇ……私が一年生の学園祭の時は盛大に失敗してくれたけど」
梓はギター、純はベース、そして憂はキーボード。
三人の役割が固まった。
「この為に唯さんはいっぱい午後の紅茶を飲んだんですよ」
茜は梓達に唯のやって来た事を説明する。
「午後の紅茶……?」
だが梓にはあまり説明が伝わらなかったようだ。
「ムギの紅茶が恋しくて安物の紅茶を買った唯」という光景すら思い浮かべていた。
しかしそれでも一つだけ梓には分かる気がした。
「でも……唯先輩なりに私達に期待してくれてるんだ……」
この懸賞でキーボードを当てるのにも、とてつもない幸運に加えて粘り強い物が必要だったはずだ。
唯は唯なりのやり方で応援してくれたのだろう。
「ふっ……最初はどうなるかと思ったけど、ここまで先輩達が応援してくれてるならやるしかないね!」
純は腕を組みながら、この場の総意を代弁する。
思えば梓への同情が少なからず占めていた新軽音部だったが、障害である「4人以上居ないと廃部」「憂のポジション不定」の二つは解決された。
そして部長として梓は宣言する。
「新歓ライブまで1週間!目指すは放課後ティータイムに負けない軽音部!」
「えいえいおー!」
手を合わせる3人。
放課後ティータイムに負けない軽音部を作る。それが梓が唯達と交わした約束だった。
そして茜はテーブルに座って呟く。
「平沢せんぱーい。高い紅茶が飲みたいので淹れてくださーい」
「はーい、待っててね茜ちゃん」
キーボードを置いて紅茶を入れる準備を始める憂に、梓と純は思わずずっこける。
「まっ。軽音部らしいっちゃらしいけどねぇ」
「うん、そだね」
あまり練習に熱心ではない、この感覚。
だがそれもまた梓にとっては懐かしさを覚える物だった。
#4「地味子!」へ続く
<注約>
今回出てきたローソンネタはけいおん!フェアが元ネタ。
ただし当SSの設定としては架空のアニメという事になってます。
また現実のけいおん!フェアのA賞は「唯の使ってたギター×5名」でしたが、当SSでは「ギター×2、ドラム×1、ベース×1、キーボード×1」という設定。
今回出てきた立花姫子と若王子いちごはアニメ版のモブキャラを拝借。
姫子はギャル系だけど面倒見が良くて唯と仲が良い。
いちごは毒舌クール。
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