1.夢現幻想世紀

 紛失により幻想入りしました。

2.月の妖鳥、 夜のデンデラ野を逝く

「そう、間違いなくこれよ」

 宇佐見蓮子はそう言って、相棒のマエリベリー・ハーンに写真付きのノートを見せた。
 秋の夜は肌寒くなってきている、が、これから見るであろう光景に比べれば大した問題ではない。



−−−−−



 満月の日だったのは、三日前の事だった。
 その日の夜、蓮子は自宅にて、一人、月を眺めていた。
 蓮子の眼は、兎のように、生まれつき紅かった。
 ブラウンのショートカットヘアからは、傍目には兎の耳が付いている。
 いや、兎の耳は付いてる訳では無かった。
 蓮子の頭から、髪の毛を掻き分け”生えて”いた。

 宇佐見蓮子は、月から来た人だった。それを知るのは蓮子本人だけだ。
 満月の時だけ、兎の耳が生えて、兎と化す。
 月人の中でも、特殊体質とも言える。



−−−−−



 地上の年号に直して1969年に、アポロ11号だか言う地上から来た船が、月に降り立った。
 蓮子を含めて、月の民は、卑しい地上人が、月まで攻めてくる事など、有り得る訳がないと思っていた。
 だが、有り得てしまったのだ。
 月の民は、地上人の数を調整するために、地上人を魔物に変えてきた。それは妖怪と呼ばれる存在だ。
 だが、いつからか、それは終わりを告げる。
 地上人は、自ら魔物を封印してしまった。
 彼ら次第に月を、夜を恐れなくなった。
 地上人は益々増長した。
 月の光が必要で無くなった夜。
 潮の満ち干が無関係な海岸。
 そして、その増長の結果が月にまで攻め込むまでに至ったという訳だ。

 彼らは、旗を立てて好き放題やっていた。
 当然、月人達も、黙っては居ない。
 月人には、何千年・何億年と生きている知恵と誇りがあり、何より無限に匹敵する歴史があった。
 だが、地上人の近代兵器は、月人達の予想を超えていた。
 蓮子は、月の民が戦ってる中、仲間達を見捨てて、命からがら逃げ出してきたのだった。



 地上は穢い。
 何億年も生きられる月の民でも、地上に居れば数十年で死んでしまう。
 純粋な兎なら、まだ寿命を保てるだろうが、月人である蓮子は、確実に寿命が縮む。
 それを知りつつも蓮子は逃げ出したのだ。永遠を捨てて。

 地上は大きな密室になるという。蓮子もそれを信じていた。
 だが、今考えれば月の方が密室だった。
 月から降りてきた人は、成層圏で燃え尽きるか、道を誤る。



−−−−−



 ガラス窓に映る自分の兎耳に、蓮子は自嘲した。

「メリーには見せらんないね」

 メリーとは、相棒のマエリベリー・ハーンの愛称だ。
 どうして、そんな愛称で呼ぶのかは不明である。宇宙人の思考はよくわからない。
 きっと、メリーは、この国の人は発音しにくい名前だと思ってるのだろうが。
 
 蓮子とメリーは、秘封倶楽部という、メンバーは二人だけの、良くあるただの霊能者サークルだった。
 霊能者サークルだが、普通みたいに除霊や降霊とかは好きではない。
 周りからはまともな霊能活動した事ない不良サークル、と思われてるけど… 実は違う。



−−−−−



「陰陽玉は……っと」

 蓮子は、兎耳をピョコピョコ揺らしながら、白黒の模様がついている丸い玉を手に持った。
 陰陽玉は、蓮子が月から持ってきた神宝の一つだ。
 月の民は、神宝に宿る力を発動させる力がある。

 この陰陽玉は、月の民である蓮子、あるいはその血縁者にしか扱えない。
 陰陽玉は、使う人の力に影響されて、その力を吸収していく。
 十分に力を吸収した陰陽玉は、 その絶大な力を1回だけ放出するわ。
 そう、正の方向にも、 たとえ、負の方向だとしても……。
 そのあとは、また元に戻り、再び吸収しはじめる……。

 しかし、実際には、そんな使い方をする者は居ない。蓮子も、陰陽玉のそんな力はどうでもいい。
 だが、せっかく強い力があるのだから有効活用はする。

「写符「幻視乃夜」……」

 蓮子は、陰陽玉の力を借りて呪文を唱えた。
 懐からデジタルカメラを取り出して、満月を写す。
 一瞬にして画像が現像される。

 そこには、見た事がない寺院が写っていた。
 陰陽玉と満月の力を借りて、蓮子は念写したのだった。

「これで良し」



−−−−−



「メリー、蓮台野にある入り口を見に行かない?」

 蓮子が、その話を、メリーに持ちかけたのは、満月だった日の、翌日だった。

「蓮台野の入り口って、何? 蓮子」

 メリーの顔は唐突な話に、豆鉄砲を食らったように見えた。

「まぁ、見てよ」

 蓮子は古い寺院が写っている写真を差し出した。見た事もない寺院だった。

「これが冥界よ」

「なんで冥界の写真なんかあるのよ」

「私には裏表ルートがあるのよ、メリー」

 蓮子は、陰陽玉と満月の力を借りた『写符』によって写した物だという事を、メリーに言わない。
 どうせ死体相手の念写が何かだと考えているのだろう。
 それでも世界は変わらないし、問題はない。

「で、こっちの写真。山門の奥を見て……」

 蓮子が指を刺した場所には、夜の平野、そして、一つの墓石が写っていた。
 空気の色が違う。
 確かにそれは蓮子らが住む世界の色だった……。

 ちなみに、山門は三問という漢字が正しいのだが、蓮子は最後まで気づかなかった。



−−−−−



 そう、秘封倶楽部の裏の顔は張り巡らされた結界を暴くサークルなのだ。
 均衡を崩す恐れがあるから、月では禁止されていたし、メリーにも一応禁止した。
 だが、メリーは結界の境目が見える程度の能力を持っていた。
 何もしてなくても見えてしまう。これは不可抗力だ。
 蓮子も、そう思って禁止はしてるが、不可抗力として、メリーと共に結界を暴いていった。
 恐らく、地上人が魔物を封印した場所なのだろうが、それでも興味はあった。
 蓮子は、月に居たころから好奇心は人一倍強かった。それ故に月にとってもイレギュラーであったとも言える。



−−−−−



「そう言えば、蓮子は「蓮台野の入り口」って言ってたわ。この写真から入り口の場所が分かったのかしら?」

「簡単よ。ここに月と星が写っているのが見えるじゃない」

 蓮子は、空を見ただけで時間と場所が分かる程度の能力を持つ。
 仕組み的には、星の光で今の時間が分かり、月を見ただけで今居る場所が分かる程度の能力だ。
 自然には、全く干渉を受けない属性が三系統ある。
 その三系統全ての組み合わせで自然は全て説明出来る。
 三系統とは、「日」と、「月」と、「星」という一系統。
 「日」には人を惹きつける絶対的な魅力と、お月様もお星様も消してしまうという傲慢さを持つ。
 「月」は満ち欠けで自らの姿を変えるところに、協調性と優秀普段さを持つ。
 「星」は動かない北極星から、動きに惑いを見せる惑星、一瞬だけ顔を見せる流星、と多様性と非協調性を持つ。
 このお日様とお月様とお星様、三つを併せて『三精』と呼び、それが自然の気質を表す属性の一系統にあたる。

 蓮子は、『三精』の内の二系統を操る事が出来る。
 三精を全て操る事は難しい。
 魔物の中でも特に魔力の強い「魔女」でも、三精の内、二系統を操る程度で精一杯だろう。

 メリーは、この眼を気持ち悪いと思っているようだが
 蓮子にしてみれば、メリーの眼の方が気持ち悪いと思う。



−−−−−



 墓には、彼岸花が咲いていた。
 この紫の花は、罪を犯した人間の魂がなる物だ。
 六十年に一度、「日」と「春」と「土」の組み合わせが来る。
 それが表すのは「あらゆる物の再生」だ。
 そして、再生には死を伴う。この地上のどこかで、多くの人間が死んだのだろう。

「蓮台野で一番彼岸花が多く生えているお墓が入り口よ」

 メリーが突然そう言った。

「メリーがそう言うなら間違いないだろうね」

 蓮子は、そう信じて疑わなかった。
 メリーの能力は、アテにしている。

 蓮子自身、結界については中和も出来るし、張る事も出来る。月の民の特性だ。
 しかし、メリー自身は、特に気づいていないようだが、境界に関しては、蓮子以上によく見えるようだ。



−−−−−



 蓮台野結界穴捜索決行の日。
 人気の無い夜が最適、という事で夜に出発する事になった。

「メリー。花粉に弱い人間が居るってのは本当?」

 その道中、蓮子は、ふとメリーに問うた。
 月では、殺菌消毒がなされていて、花粉など舞い散らないのである。
 だが、地上では、春になると花粉が舞い散り、それを吸い込んだ人は、くしゃみ、鼻水に悩まされるという。
 蓮子にしてみれば眉唾モノの話だが、穢い地上では、有り得る話かもしれない。

「何を聞いてるのか分からないわ、蓮子」

「言葉通りだよメリー。花粉に弱い人間ってのは居るの?」

「そりゃ居るでしょう。春になると花粉症に悩まされる人はいっぱい居るらしいわ」

「いや、聞いてみただけ。そんじゃ行こうか」

 何を今更、という口調で返されたので、蓮子も話を逸らす事にした。
 そして、秘封倶楽部は勇ましく出発する。


−−−−−



 勇ましく出発したまでは良かったのだが、蓮台野に着いた時、二人とも急に冷静になってしまった。
 蓮台野は墓地だという事を今更ながら思い出したのだ。
 墓を弄ってみたり、卒塔婆を抜いてみたり色々やっているメリーに、蓮子は声をかける。

「ちょっと周ってみたんだけど、蓮台野で一番彼岸花が咲いているのは、あの墓みたいだよ」

 蓮子は、メリーに、その墓の場所を教える。



−−−−−



「これ、誰のお墓かしら?」

 蓮台野で、彼岸花が最も咲き乱れている墓石を見て、メリーは呟いた。
 蓮子は、冥い中で、墓石に書かれた文字を凝視する。

「上の文字が「西」…… 下の文字が「寺」…… って見えるね」

「西行さん? でも、墓石に書かれてるのは三文字に見えるわ。蓮子」

「うん。読みにくいけども、くずし字で「々」と書かれてるんじゃないかな?」

「西々寺…… ”さいぎょうじ”さん?」

「彼岸花が悪い事をした魂に取り憑くんだよ。きっと、この西行寺って人も悪い事いっぱいしたんだろうね」

「例えば殺人とか?」

「うん。例えば、ね」

 墓とは、死んだ人間を懐かしむ場所であり、死んだ霊が集まりやすい場所だ。
 そして、彼岸花は罪のある魂の花。
 それが咲き乱れる墓。という事は、この下で眠る人は、多くの殺人を犯したかもしれない。と蓮子は、思う。
 故意かどうかはわからない。
 それに、多くの人を殺したであろう西行寺という人物が、この墓の下で眠っているとは限らない。



−−−−−



「2時27分41秒……」

 蓮子は空を見ながら、呟いていた。
 墓石は重たくてまわすのがやっとなのだが、気にもしない。

「2時30分ジャスト!」

 墓石を4分の1回転させたその時。
 秋だと言うのに目の前に一面桜の世界が広がった。



−−−−−



 一方その頃。



−−−−−



 白玉楼。西行寺家。
 妖怪・八雲紫は何かを考えていた。

「(もう、そろそろかしら?)」

 ふと、始まりが近くにあると思い出した。

「へっ…… へっくしょい、へっくしょい!!」

 そこに、隣から、くしゃみの音が響く。勢いはない。

「あら、花粉症でもなったのかしら?」

「噂かもしれないわよ幽々子。二回目のくしゃみは良い噂だけど、三回目のくしゃみは悪い噂なのよ」

「花粉症かもしれないわね〜。もう春だし」

「月では、花粉症の人は居ないらしいわ。というか、死だけじゃなくて桜も操る貴方が花粉症なの?」

「噂でしょうね〜。きっと悪い噂」

「さて、どうかしら。案外、花粉症かもしれないわよ」

 紫はふと空を見上げてみた。
 確かに、それはあったのだ。
 始まりは、すぐそこにある。
 確かにあるのだ。




−−−−−



<あとがきっぽいの>

 普通の秘封倶楽部の話を期待してた人。ごめんなさい。
 「そう! 蓮子は霊夢の先祖だったんだよ!!」とかやった、夢現幻想世紀から設定を受け継ぐ話。
 蓮台野夜行を蓮子視点でやったら、こんな話に。

・蓮子が月人
 うさ耳蓮子が、一部で出回ってるというのもありますが
 メリーを愛称で呼んだりしてるのも、永琳や輝夜が、鈴仙は色んな愛称で呼んでるのに通じる。
 宇宙人の思考は理解不能という事で。
 メリーは「この国の人にはマエリベリー・ハーンと発音しにくいらしい」と思ってるけども、それはメリーの主観な訳で。

 それと、結界についても冷静に考えればおかしい気がします。
 既に結界や妖怪の存在が、御伽噺の世界になってるはずの外の世界。
 「何故、禁止されてるのか?」と、考えたり。
 そういえば、月人(?)な咲夜は、妖々夢で結界を簡単に潜り抜け、鈴仙も結界を通って幻想郷に侵入している。
 月人は、結界について熟知しているとも考えられるかもしれない。
 いや、根も葉もない妄想なんですが。


 「写符」は、作者が、紅魔郷の直後に霊夢に使わせようとして、結局特殊武装にしかならないから没ったスペルカードなんだとか。
 念写に関しても、蓮子が色々と謎が多い事が見受けられます。
 メリーは「どうせ死体相手の念写かなんかだろう」と思ってるけども、それもメリーの主観な訳で。
 ちなみに、「写符」云々については、ゲーム版の文花帖のおまけtxtに載ってます。結局、文の武装になったっぽいです。

 花粉症に関しては、花映塚マッチモードで咲夜の勝ちセリフから
 咲夜は花粉症の存在を全く信じてません。地上から月へ行けると信じてないのと同じぐらい信じてないっぽいです。
 じゃあ、月では花粉症は無いのかもしれないです。地上は穢いらしいので。


 まあ、上記までは、非公式の捏造なんですが
 「三精」云々に関しては公式設定です。東方紫香花に、そういう記述がありますし。
 「月」「星」という点で、この「三精」を結びつけられるかな、と思ったので。
 実際、蓮子の能力は「三精」を操ってるのかもしれない。
 パチュリーも、その気になれば月を見ただけで今居る場所がわかるのかもしれないですね。



 ここまで読んでくださって感謝のきわみです。


06年3月28日(月)



3.幻想工場


 色鮮やかな博麗神社。紅白の服を着込んだ少女を、からかって楽しむ私。

 ――呼ばれてもないのに出てくる。呼んでも出て来ないし……。

 ――あら、私を呼んだ事なんてあるの?

 ――ない!



―――――



 色あせた博麗神社。黒いハットをかぶった少女と、結界を潜り抜ける私。


 ――目を覚ますってどういう事?

 ――文字通りよ。メリーが見た夢の世界へ行くのよ!

 ――ちょっ、蓮子?

 ――さあ、目を覚ますのよ!



―――――



 意識が虚ろになったまま、時間が動き出す。未来へは戻らない。



―――――



 過去へ。
 人間の少女が、地獄と化している白玉楼階段を、登ってきている。
 ここは妖怪と人間の境界が薄くなっている。
 そんな地獄を登ってくる少女を見て微笑む私。



―――――



 さらに過去へ。
 まるでビデオテープの早送りのように、過去へ進む。
 狐の女性が、家に猫の少女を連れてきていた。
 この黒猫を自分の式にする、と言う狐を見て微笑む私。



―――――



 そこから世界は動き出す。
 過去と未来の境界が、曖昧になっている。
 例え時間は、過去を示していても、主観はそれを未来と言っている。
 夢だ。
 夢と現実は違う物。
 人は、夢を現実に変えようと努力する。



―――――――――――――――



 マエリベリー・ハーンは、緑が生い茂る山奥で目を覚ました。
 今日も立ち眩みがする。まだ明け方だ。
 木と木の間から差し込む朝日と、清々しい風が、立ち眩みの不快感を癒してくれるような気がした。
 桜色の傘を片手に、メリーは本能的に蓮子を探す。
 宇佐見蓮子は、竹の下で身を隠している筍を集めていた。

「ふわあ〜…… おはよう、蓮子」

 蓮子とメリーが”目覚めて”から、すでに3日が経っていた。
 今の二人にとって幻想こそが、現実。



―――――



「おはよう、メリー。寝坊の達人である貴方が、今日は早いわね」

 体中泥まみれにした蓮子が、メリーの姿に気が付いたようだった。

「あんなベッドじゃのんびり眠れないのよ」

 ここは、人里離れた山奥にある高台で、そこにベッドはおろか、布団すらもない。
 ただ雑草が生い茂っているだけだ。
 つまり、野宿である。

「今のご時世に、ベッドなんて代物は無いよ。メリー。
 今の日本は鎖国されてるんだからね。昔、徳川家光殿下が決めた事だもの」

「ねえ、蓮子。夢の私達は300年後から、この時代まで来たのよね。何故かしら?」

「さあてね」

 蓮子は天を仰ぎ、反り返って笑った。

「今、私達が江戸時代に居る事が現実なのよ。メリー」

 メリーも、蓮子につられるように、天を仰いで笑う。

「でも、なんで蓮子は、夢の中でしか見られないベッドなんて物を知ってるのかしらね。ふふっ……」



―――――



 話は、この三日前に遡る。
 秘封倶楽部の二人が”目覚めた”最初の夜。

「今年は1730年みたいだよ」

 夜空に輝き星を見て、蓮子は簡単に言ってのけた。

「1730年って…… 江戸時代?」

「だろうね。どちらにしろ、私達は300年も昔まで飛んできた事になる。そして、私達は目覚めたんだよ。
 超えてきた時、過去と未来の境界は見えなかった? メリー」

「ねえ、そんな物にも境界はあるの?
 咲夜さんとか、レミリアお嬢様とか、不死鳥の女の子とか、そういった人達は居るの?
 それに、妖怪とか出てきたら、どうすればいいのかしら?」

「質問は一つに絞ってよ。
 境界はどんな物にでもあるよ。
 次に、メリーが見た悪夢の中に出てきた人達は居ないかもしれない、三百年前だからね
 最後に、妖怪が出てきたら返り討ちにすればいい。妖怪は、元々、月の連中が地上人を調整するための存在だけども、勝てない相手じゃない」

「妖怪を返り討ち? どうやって?」

 蓮子は、300年後から持ち込んできた物から、お札のような紙切れを手に取る。
 メリーが、傘一本と衣服しか持ってこなかったのに対して、蓮子は白黒の弾とか、デジカメとか、何か変な物を持ってきていたのだ。

「はい。これを撃ってみて」

 蓮子は、メリーにお札を手渡した。
 何やら文字のような物が書かれているが、メリーには読めない。

「何? これ」

 メリーは、読めない文字が書かれたお札を、蓮子に向ける。
 だが、お札を向けられた蓮子は、驚いたような仕草を取る。

「ちょっ…… それ向けないでってば!」

「え?」

 瞬間。
 メリーの手にある札から、クナイのような物が飛び出して、蓮子に襲い掛かった。
 速射された、クナイは蓮子に向けて襲い掛かる。

「痛っ……! ちょっ、止めてってば!」

「ご、ごめん! 蓮子! でも、撃ってみてって言ったから……」

 メリーは慌てて、蓮子に向けていた札を、空へ掲げる。
 満点の星空に、クナイが吸い込まれていき、やがて消えた。

「くうっ…… まあ、言い方が悪かったよ。メリー」

「何で、そんな物を持っているの? 蓮子」

「私には裏表ルートがあるからよ。
 このクナイ弾なら、力の弱い妖怪程度なら、何とか相手に出来るわ。メリー」

「ふうん。今にして思ったけど、蓮子の裏表ルートってのは、幅が広いのねえ」

 メリーは、お札を天にかざして見つめる。
 原理はよく知らないが、もし妖怪に襲われたときに、このクナイ弾は役に立つだろう。

「ところで話は変わるけど、月の連中とか、地上人を調整とかって、どういう事? 蓮子」

「月に人が住んでるって事は、偉い人達が隠してたのよ。秘密裏に侵略戦争仕掛けながらね」

「偉い人達ねえ……」

「まあ、夢の中の話なんだけどね」



―――――



 そして、三日後の現在。
 蓮子が筍を掘り出して、その間メリーは火を起こしたり、妖怪が現れないかを見張っていたりするローテーションで過ごしていた。
 そして、この日も秘封倶楽部の二人は、掘り出した天然の筍で、朝食を済ませていた。

「三日、しかも三食続けて、筍ってのも流石に飽きるね。朝ごはんぐらい、ご飯と味噌汁で頂きたくなってきたわ」

「朝ごはんは、朝餉というのよ。蓮子」

 蓮子は、メリーの日本談義にも耳を貸さずに、写真とメモを取り出してメリーに見せた。

「そんな事よりメリー。博麗神社を見に行かない?」

 蓮子が見せた、写真とメモは、確かに色あせた博麗神社の姿だった。

「博麗神社? この時代にも、博麗神社があるの?」

「ほら、これが300年後の博麗神社。で、こっちが現在の博麗神社よ」

 そう言って、蓮子は、未来の博麗神社と、現在の博麗神社を見せる。
 確かに、蓮子が見せた”現在の博麗神社”は、心なしか300年後の物よりも損傷が少ないようにも見える。
 しかし、江戸時代のご時世にデジカメを使って問題ないのかしら? と、メリーは思ったが、口に出さなかった。

「そんなことより、いつ撮ったの? これ」

「メリーが寝てる間。ああ、その間、結界を張っといたから妖怪に食べられる危険性は無かったから大丈夫よ」

 何が、大丈夫なのか? とメリーは思ったが、やはり口に出さなかった。
 宇佐見蓮子。という白黒の服を着込んだ、この相棒は存在そのものがインチキである。という事に、今更気づいたが
 それが、メリーにとっては頼もしかった。

「それにね、メリー。ちょっと街道へ降りていって、噂を小耳にしたんだけどね」

 蓮子は、含み笑いを隠さず、心底嬉しそうに言った。

「今、博麗神社に誰かが住んでいる訳ではないんだって。何か悪霊がとりついたって話らしいけどね」

「ねえ蓮子。博麗神社に人が住んでいないって、それがどうかしたの?」

 蓮子は、はあっ? と言わんばかりの、面構えを見せた。
 メリーは、小馬鹿にされた感じで、むっと怒る。

「いいメリー。人が住んでいないのなら、私達が博麗神社に住めるって事じゃない」

「それがどうしたの? あんなボロ神社に住みたいなんて、蓮子も変わってるわね」

 投げやりなメリーの態度に対して、蓮子は大声を張り上げて言い放つ。

「わからないの!? あんなボロ神社だろうと、雨風を防げるじゃない!」

 メリーは、はっと気づいた。

「今頃気づいたようだねメリー。そうよ、この三日間、ちっとも雨が降ってなかったけども、いつか雨は降る。
 どんなボロ神社でも、それを防げるならめっけもんでしょ?」

「でも、人の家じゃないの? それは、乗っ取りというと思うわ。蓮子」

「悪霊が出たから、もう使われてないんだって。だから、私達が住んでも問題はないでしょう?」

 蓮子の言ってる事は、凄い言い分である。
 だが、雨風を防げるのなら、どんなボロ神社でも良い。というのには、メリーも心の中で同意した。

「そうね。それに野宿は、もう飽きたしね」

「結論が出たね」

 蓮子は、メリーが同意したのと同時に、白黒の玉やお札などの荷物を集める。
 メリーには、その姿が、まるで旅支度をしているようにも見える。

「よしっ、それじゃ秘封倶楽部博麗神社乗っ取り大作戦を実行しに行くわよ! メリー」

「やっぱり乗っ取るのね」



―――――



 かくして、悪夢を吉夢にすべく目覚めた、二人の霊能少女は目覚めた。



 結界の境目を視る、マエリベリー。ハーン。
 空を視る事で、今居る場所と時間が分かる、宇佐見蓮子。



 色あせた博麗神社。
 そんな神社に出没する悪霊とは何者なのか。
 秘封倶楽部の二人は、博麗神社へ往く。乗っ取るために。



 これは、確かにあったはずの、夢の始まりである。





―――――



06年04月21日執筆



4.八雲紫の彼岸参り

 妖怪は、朝に眠り夜に活動をする者が多い。
 何故かというと夜には魔力と狂気の源である月が出ているからである。
 月が出ている時に妖怪は人を襲う。
 そんなお約束が、幻想における秩序であるのだ。

 まあ、現代の人間は夜遅くまで起きてる場合も多いのだが。



−−−−−



 八雲紫は「人間と妖怪の境界」を越えた日から、朝に寝て夜起きる生活を行っていた。
 一見すると、ただのグウタラ妖怪にしか見えない。
 というよりも彼女を知る多くの人妖達は、
 紫の事をデタラメな能力を持ってるけども、グウタラな妖怪としか思わないだろう。
 
 でも、紫はただグウタラ故に昼夜逆転の生活を送っている訳ではなかった。



−−−−−


 京都の北にある蓮台野墓地。
 紫色をした彼岸花が、この墓地で最も咲き乱れてる墓がある。
 墓に書かれている文字は潰れているが、かろうじて「西行寺」と読める。
 その紫(むらさき)の花で埋め尽くされる墓の前に、紫(ゆかり)は立っていた。

「これは、また見事に咲き乱れてるわねぇ」

 彼岸花は罪を犯した魂が、成る花である。
 境目を見る限り、冥界の入り口に繋がってる墓でもある。

「何もかも忘れた方が貴方にとっては幸せだったのかしら? ねえ、幽々子」

 呟くように言葉は消えていく。
 紫は親友が眠る墓に桜餅と線香を供え、静かに黙祷した。



−−−−−


 黙祷した後はお供えした桜餅を、懐にしまう。
 紫がここに来る事は少ない。
 お供えし続けていれば、次に来る時には腐敗しているだろう。
 それならば冥界に居る幽々子に直接渡した方が、よっぽどバチ当たりにならないだろう。
 
「さてと。それじゃ適当に行きましょうか」

 親友の彼岸参りを終えた紫は、適当に下界を歩いてみる事にする。
 人間を神隠しして補充する事も紫の仕事ではあるのだが、最近は人間の数も多めである。
 まだ半年ぐらいは神隠ししなくても十分持つだろう。

 とは言っても、幻想郷は平和である。
 そもそも、同種族の存在が食われて憤るのは人間だけではない。
 兎も蛍も夜雀や天狗も、自分と同種族の存在が襲われれば憤る。
 自分達を万物の霊長だと考え物事の表面しか見ない人間には、真の世界の姿は見えてこない。
 まあ、紫にしては人間のそういった面も愛しくもある訳だが。

 運が良いかどうかはわからないが、幻想郷から下界へ戻れた人間は口を揃えて幻想郷を「楽園」「桃源郷」などと呼ぶのだ。
 しかし現代の科学世紀では、それも「何者かに拉致監禁されたトラウマで精神病にかかった」と診断されるのだから寂しいと紫は思う。
 だから、ここ数十年は幻想郷の外に出る人妖を出さないように心がけている。
 最近では花の妖怪である風見幽香や、古道具屋をやっている森近霖之助などが外へ出てしまったが、即座に幻想郷へ強制送還した。
 問題はないと思う。多分。



−−−−−



 紫は、夜になるまで暇潰しとして東京へ行く事にした。
 昔、日本の首都だったのが東京である。
 東京には、閉塞感ある狭くて高いビルの中で遊ぶテーマパークとか、超大型ショッピングモール
 などといった洗練されていない庶民的な娯楽がまだ残っている。
 その辺、京都は厳しくて娯楽と言えば新茶道しかない。
 紫自身は人間だった頃から茶室の密室さ加減が好きであったが、茶道なら幽々子の所にでも行けばいくらでも出来る。

 そういう訳で、東京へ行って暇を潰す事にした。
 香霖堂の店主が喜びそうな土産も、東京の方が手に入りやすいだろうし。


−−−−−


 紫は卯酉新幹線『ヒロシゲ』の駅まで、一気に境界を越えてやって来た。
 蓮台野から卯酉駅まで歩いてくるのは骨が折れるからだ。

 だが、東京にまで境界を超えて飛んでいくのも風情がない。
 卯酉東海道には、最大の”売り”と予算を使った装置『カレイドスクリーン』がある。
 歌川広重が見て歩いただろう東海道、その物を映し出す装置。
 どこまでもどこまでも美しい。空と海と、富士の山。五十三の宿場町。
 僅か53分の『偽者の』景色はヴァーチャルであるが、それ故に感覚を刺激する。
 ヴァーチャルこそが、人間の本質なのだ。


−−−−−


 紫は境界を飛び越える事で、切符を買わずに無賃乗車をする事に成功した。
 別にヒロシゲに乗るためにかかる費用など、しれたものではある。
 むしろ旧東海道を利用する方が、物凄い費用がかかるというのが現実だ。

 まあ京都から東京までは、客数も少ないので問題はないだろう。


 ヒロシゲの席は、四人まで座れるボックス型だったりする。
 だが、今は空いているせいか
 紫は、隣の席の二人組みの会話を盗み聞きしてみる事にしてみた。


−−−−−


 そう、紫の隣の席に座っていたのは……
 昔の親友である宇佐見蓮子と、”かつての自分”であるマエリベリー・ハーン(メリー)の会話であった。
 紫にとって、偶然なのか計算だったのかはわからない。


 −−−そして53ミニッツの旅が始まる。
 紫はかつての自分に突っ込みを入れながら、ヴァーチャルな世界に浸るのだった。



 「卯酉東海道」へ続く(のかもしれない)



5.夢より現


 20XX年、京都市。
 今日は休日で講習もない。
 午後三時頃、マエリベリー・ハーンは一人、京都の街中をうろついていた。
 こういう時には親友で相棒でもある宇佐見蓮子が居るものだが、家の事情とかなんとかで居ない。

「気持ち悪……」

 メリーの家系は元々霊感が強い一族だったらしい。
 その所為かどうかは知らないが、メリーには何もしなくても結界の境目が見えてしまう。
 メリーが所属しているサークル「秘封倶楽部」は、その能力を生かして結界を暴いていくのが主な活動となっている。
 サークルといってもメリーと蓮子の二人しか居ないのだが。

 だがメリーの能力は日を追うごとに強力になっている。
 たまに気分が悪くなってしまう時も多々ある。

 こういう時は酒を飲むのが一番だとメリーは思う。
 丁度すぐそこに喫茶店がある。
 酒を頼もう。何でもいいから。



「あの、大丈夫ですか?」

 喫茶店へ進もうとするメリーの背後から、不意に甲高い声が聞こえた。
 蓮子が脈絡もなく現れたのだと思ったが、そうではない。
 聞きなれない少女の声だ。
 とりあえず心配してくれているみたいなので、感謝だけはしておく。

「ええ、大丈夫ですわ」

「それは良かったです。探しましたわ、メリー姉さん」

 学生服で後髪を短く結っている少女は、メリーを姉と呼んだ。
 だがメリーには、妹など居ない。

「姉さん? 私に妹なんて居ませんが」

「あの、互いの見解に相違が見られますわ。私、貴方の従姉妹の比良乃です。桜崎比良乃」

「比良乃?」

 そこでメリーは、はっと思い出したように手を叩いた。

「比良ちゃん? 比良ちゃんじゃないの。桜崎の家業を継いだって聞いたけど、高校に行ってるの?」

「一応中卒でも巫女の仕事は出来るのですが、このご時世ですから高校ぐらいは卒業した方が良いと言われまして……。
 今年で3年なので、順調に行けば来年の春に卒業出来ますわ」

「そっか。じゃあ立ち話もなんだし、そこの喫茶店でも行きますか」

「いえ、別にそこまではいいですよ」

「いいのよ。おごるから」


−−−−−


 メリーと比良乃は四人分のテーブルに、向かい合うようにして座っていた。
 この時間帯は空いているらしく、客の数も少ない。

「あの、メリー姉さん?」

「んー、何? 比良ちゃん」

「こんな時間帯にビールというのは、どうかと思うのですが……」

 比良乃は、メリーの手にあるジョッキのビールをじっと見ていた。
 メリーは大ジョッキで頼んでいたが、そのボリュームは流石に並ではない。

「いいのよ、私もう二十歳越えたし」

「法律的には問題ないですね」

「みんな飲んでるわ。比良ちゃんも飲む?」

「結構です。私の年齢では法律的に問題ありですので」

 比良乃は、ビールを飲ませようとするメリーの誘いを丁重に断って
 ガムシロップとミルクを入れたアイスコーヒーを、ストローで吸って飲んでいた。


−−−−−


「比良ちゃん、月旅行に行きたいわよねぇ」

「はい?」

 顔をほんのりと赤らめたメリーが、
 ビールジョッキの中身は、半分以上がメリーの体内へと消えている。
 既に軽く酔っ払っているのだろう。

「月旅行よ、月旅行。最近のニュースで月に行けるって」

「初耳ですね。そこまで科学は進歩していたのですか」

「でもね、値段がバカ高いのよ。あんな額、余程のセレブじゃないと払えないのよ」

 メリーはそう言ってジョッキのビールを一気飲みするのであった。
 
「そう、ですか……」

 比良乃は思わず苦笑する。
 メリーが酔っ払っているからだけではない。


 つい先日、比良乃は火星へ行っていた。
 理由はとある女性の声に誘われたというだけだったが、
 そこで比良乃は、パワープラント・RedStormによって動くロボットの反乱に巻き込まれた。
 最終的に鎮圧する事になったが、報道では単純に爆発事故として処理された事件である。

 比良乃が火星へ行けたのは、桜崎の力による物である。
 結界を張って大気圏の熱やら、宇宙空間の真空やらから身を守り
 空を飛ぶ術によって、宇宙へ飛びあがる。
 それは桜崎の巫女である比良乃にとって朝飯前なのである。

「(火星に行けたぐらいですから、月にだって行けるはずですが、それは言わない方が良いでしょうね)」

 比良乃とメリーは従姉妹だ。
 昔から姉妹のように遊んでた仲でもある。
 それはつまり、メリーの家系も桜崎家に連なっているという事だ。

 しかし桜崎家も元々は、ある家柄の分家だったらしい。
 その本家を”博麗”と呼ぶ。
 京都の山奥には、博麗神社というくたびれた神社がある。
 だが、そこに張られてる大結界の向こうには魑魅魍魎が封印されてるのだと言う。
 それらの魑魅魍魎が外界に出ないように、過去の博麗巫女は結界の向こう側へ残り
 そして博麗神社の大結界を、外側から守る役割が桜崎の巫女の役割である。

 恐らく比良乃が生身とは思えないほど強いのも、博麗の血筋が脈々と受け継がれてるからだろう。
 そしてその博麗の血筋は、メリーも継いでいるのである。


−−−−−


 アイスコーヒーを飲み終えた所で、比良乃は本題に入る事にした。

「メリー姉さん」

「ん?」

「最近、変な夢とか見ませんか? 例えば妖怪に追いかけられる夢とか」

 最近になって、博麗神社の大結界を何者かが越えている事が判明した。
 比良乃がメリーを探してた理由は、この件について調べる事だった。


 古来の日本には、魑魅魍魎と戦う術として結界術というものがあった。
 比良乃には、宇宙艦隊すら単独で壊滅させられる力がある。
 だが結界術に関しては、各々の才能がある。
 陰陽術などで圧倒的な力を身につけている比良乃ですら、結界術は扱えなかった。

 一方でメリーには、昔から結界の境目が見えていたらしい。
 もしかするとメリーに結界術の才能があって
 それで無意識で、メリーは博麗神社の大結界を越えてるのかもしれない。


「……見る、かも」

「見るんですね……」

 メリーは真面目な顔で答えていた。
 その様子から、本当に悪夢に苛まれているのだろう。

「メリー姉さん。その夢には気をつけてください。もし何かに追いかけられるようだったら逃げてください」

「わかった。もし不安になったら相棒に相談してみる」

 メリーの言う相棒が気になったが、比良乃はそれよりも気になる事があった。
 博麗神社の大結界にはメリーが関わっているのか。
 それと近年でも起こりうる神隠し事件。
 誘拐事件とも蒸発とも言われるが、比良乃の勘は博麗神社の大結界と関わりがあるのではないかと感じている。


−−−−−


 数日後。

 −女子大生二名が行方不明−

 というニュースを比良乃は聞いた。
 その中には、マエリベリー・ハーンの名前もあった。

「夢と現の境界……。現より夢、という事ですか、メリー姉さん。それが貴方の望みなんですね」

 比良乃は、空を見つめて呟いた。
 どこまでも空は続いているように見えた。


 〜了〜


 補足

 桜崎比良乃は西方シリーズ「幡紫竜」に登場する巫女の事。
 ただし桜崎家は博麗の分家だったり、メリーと比良乃が従姉妹だったりするのは、オリ設定。




?.東方秘封夢





 咎重き 桜の花の 黄泉の国
 生きては見えず 死しても見れず

  マエリベリー・ハーン




 メリーは対峙する少女を見て、苦笑した。
 富士見の娘。死を操作する少女。

「何がおかしいのかしら?」

 そう言う娘の眼は、相変わらず無表情のままだ。
 だが、それでもメリーは苦笑を堪えない。

「貴方のやり方がぬるいって思ってね。死を操るのよね、じゃあ何故私を殺さないのかしら」

「あら、私はその気になればいつでも人間を死に誘えるわ。勿論、貴方もね」

「出来る物ならね」

 メリーには死を操る少女と向かい合っても、なお生きていられる自信がある。
 例え、富士見の娘が人間を死の境界の向こう側へ飛ばす事が出来るのだとしても……


「ふふ、貴方は気づいていない」

「?」

「今、私と貴方の周りは妖怪と人間の境界が薄くなっているという事に……。
 既に、人間の境界を越して妖怪いることに」

「あら、今でも人間のつもりよ。貴女に死を与える事だって出来るわ」

「それでも、貴女には私に死を与える事は出来ないわ」


 メリーは「生と死の境界」すら、自由に超えられる。



「黄泉の世界へと逝くがいいわ! 富士見の娘!」
「死の向こう側へ逝きなさい。黒死の蝶!」




 東方秘封夢(仮題)



 蓮子とメリーが目覚めるために越えた境界は、現在と過去の境界だった

「ねえ蓮子。もう10日連続で筍尽くしよ。たまには他の物が食べたいわ」

「だったらその辺のキノコでも食べてみる? 毒だったら大変だけどね」

「……やめとくわ」


 境界を越える力を持つ”予定された無秩序”
 マエリベリー・ハーン



 ミステリアスな”空を見る不思議な少女”
 宇佐見蓮子



 そんな普通(?)の現代少女達が、過去の世界で出会う人妖達

 寒気の妖怪と氷の妖精。

 人形を操る魔界人。

 姉の幻影と暮らす少女。

 半身を殺された剣士。

 死を操る娘。

 式神の狐。



 蓮子とメリーの冒険が始まる。


「メリー、人間ってね。死んでいた自分を生き返らせてくれた者には命を賭けられるんだよ……」



 (モチベーションが上がれば)公開予定!


 <09年11月に書いた雑感>

 モチベーションが上がらなかったので公開しませんでした。




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