1.終わりなどない幻想





 不可視の満月。
 月に居る奴はみんな狂っている事になっているが、これは波長が違うから、地上人にはおかしく見えるだけ。
 月の人である、蓬莱山輝夜も、常人から見れば狂人なのだろうが、それも月の民がそういう波長を持っているだけ。
 表面しか見ない人間には、真実は見えてこない。
 幻想郷がある東方の国には、島国であるが故に、異文化を認めないという慣習も残っている。
 東方の国の文化には、ワビサビなどの、良い文化もあるのだが
 『自分達とは、違う文化を認めない』というのは、東方の国の悪しき文化であろう。まったくもって賤しいと輝夜は思う。
 それを悪しき慣習として、各々の人間が自覚しない限り、その賤しさは抜けないだろう。逆に、自覚さえすれば、見える世界も変わってくる。




−−−−−



 過去を、現在と同列に扱う事も良い事ではない。
 人間は成長するから人間である。
 時間が人間を成長させるのではない。成長しようとする意思が、人間を成長させるのだ。
 成長する意思がない人間には、他者との共存を果たす事は難しい。



−−−−−



 それと同時に、過去は美化される思い出であって、生きていく肥やしになる。
 人間も、妖怪も、月人も、あらゆる存在にとって、生きるという事は辛い事なのだ。
 輝夜は、昔を懐かしむと同時に、昔よりも自分の波長が長くなったと感じる。
 波長が長い人間は、暢気であるという事。
 元が月に住んでいた民であっても、今は地べたで這いずり回る人妖と同じ存在として、この幻想郷に在る。
 それが輝夜であり、永琳であり、鈴仙ら、月人なのだ。
 どこの世界は、肝心なのはバランスなのだ。
 どれが欠けても、世界は成り立たない。
 神社にたむろしている一部の妖怪染みた連中を除いた無力な人間は、妖怪の餌でしかないのだが
 彼らのような無力な人間も、また幻想郷の一部として成り立っているという事も事実だ。



−−−−−



 輝夜は、『竹取物語』の事を考えるたびに、そう思う。
 誰だかは知らないが、地上人の誰かが、輝夜を勝手に綴った物語だ。著作権無視も、いい所だと思う。
 史実は曲げられる。
 蓬莱の薬を焼くべく富士山へ登った月のいはかさは、”彼女”に殺されたという事も含める。
 それで、”彼女”は、時効『月のいはかさの呪い』とか銘打ったスペルカードを使うのだから始末に終えない。と思う。
 閻魔の裁判に、時効などあるのだろうか。興味はあるが、閻魔に会いたくもない。
 でも、”彼女”は自分で自分の事を人間だと言ってるから、分類的には人間らしい、って慧音が言ってた。
 妖怪以上に、人間を怖がらせるのに長けている存在であるというのに。



−−−−−



 人は次々に世代を変える。その間に、本という媒体も、追記や修正などで姿を変える。
 穢れない月では人間でも何億年と生きられるだろうが、地上は穢いから人間は数十年で死んでしまう。
 蓬莱の薬を服用しないままで、落とされれば、月の民でも、確実に寿命が縮む。
 月に居れば数億年生きられるはずなのに、地上へ落ちれば穢れによって、数十年で死ぬ。
 だから地上は牢獄なのであり、颯爽なのだ。



−−−−−



 そもそも、この『竹取物語』とやらは、権力者を批判するために作られた物語である、って慧音が言ってた。
 権力を求める事、そのものが賤しいと輝夜は思う。



−−−−−



 ”あの人”は、どうだろうか。
 輝夜が持つ五つの難題の内、最大の難題である『蓬莱の玉の枝』を最初に解いた地上人は、”あの人”であったと記憶する。
 輝夜の難題の、ほとんどは贋作揃いだが、その中で、唯一『蓬莱の玉の枝』を持っているのは、”あの人”が本物を持ってきたからだ。
 しかし、あの人を妬む声が、いつからか『贋作を持ってきた』云々という噂を呼んだ。
 そんな根も葉もない噂を、”あの人”の娘である”彼女”が、信じ込んで、輝夜を付けねらってるのだから、始末に終えないと、輝夜自身は思う。



−−−−−



 夕暮れ、昼と夜の境界線。
 そろそろ永遠亭へ帰らなければ、永琳が何やかんやと五月蝿いな、と思いつつ、歩を一歩一歩踏みしめる。
 その歩の積み重ねは、輝夜を、幻想郷を一望できる程の高い丘の上まで進めさせた。
 地上人は、見上げるばかりで見下ろさない。
 それは、地上が穢い所だと本能的に理解しているからなのかもしれない。
 だが、自然が残っている光景を見ると、今まで思っていた程、に、”彼女”は、立っていた。



−−−−−



「あら。お化け屋敷のメインイベントが、思いがけない所に居たわ」

「よく言う。私をこんな体にしたのはお前のせいじゃないか」

「あの蓬莱の薬は仕様が無かったって何度も言ってるじゃない。
 間違って作ってしまったのだけども、普通の方法で、滅ぼす事は出来ない。
 だから、富士山で燃やせって言ったのに、どっかの焼き鳥が奪っていったのよ」

「ふん。犯罪者で悪女の癖に」

「私が主犯者なら、あなたも共犯者ね。私が犯した犯罪で、最も重い罪は、蓬莱の薬を作らせた事だしね。
 おかげで、どっかの焼き鳥が、それを飲んでしまって、今じゃ妖怪以上に畏怖の対象となってるわ」

「永遠の命の恐怖って奴だな。少なくともお前よりは、永遠の呪いって奴を理解してるつもりだよ。
 どう? 殺りあうかい? 刺客を送るばかりじゃ、お前も退屈だろ」

「遊りあってもいいけど、今、忙しいからやらない」

「そう言うと思ったよ」



−−−−−



「それで、何であなたはここに居るのかしら」

「始まりは確かにあった。だが、幻想の終焉はいつか来る。ここならば、それも見れるかもやしれぬと思っただけだ」

「莫迦ね。なら、空から見渡せばいいだけの話でしょうに」

「空に継ぎ目などなかった。地上を駆け抜けていたときには、世界に広がりがあることすら知らなかった。
 此処でなら、世界の終わりも見えるものかと思っただけだ」

「そう。なら、この場所であなたの望む物は見渡せた?」

「莫迦にするな。そんなものが無いことは、わたしにも初めから分かっている」



 世界は様々な形がある。
 だからこそ、面白い。
 そして、前に進み続ける限り、終わりなど無い。
 幻想も、そして彼女達にも。



 <終>




 〜あとがきっぽいの〜


 東方の国=日本。
 そして、月には月の文化がある訳で、月に住む人も波長が違う。
 しかし、地上人とは違う思考回路をしているからと言って、彼女らを狂人扱いするというのも、変な話ではあると思う。
 輝夜の「おかしさ」というのは、永夜抄おまけtxtで、神社の中から突然現れたりする、よくわからん思考回路の事ではないかと思う今日この頃。

 今回、輝夜と妹紅を初書きしてみた。
 永琳は何故かSSで書く機会が多いけども、この二人に関しては初書き。

 個人的に、最後の会話は気に入っている。皆様がどう評価するかは、ともかく、書いていて楽しいシーンだった。

 「どう殺りあうかい?」
 「遊りあってもいいけど、今、忙しいからやらない」

 における、二人の「やりあい」の、意味の違いが、書いてて楽しかった。
 妹紅の主観が、そのまま輝夜に当てはまるとは限らないし、また逆も然り。
 書籍版の文花帖見てる限り、原作でも結構、仲が良い気もしないでもない。


 もう一つ。香霖堂や文花帖を見る限り
 幻想郷において書籍媒体というのは、あんまり役に立たないという法則があるらしい。
 それなら、(東方世界において)『竹取物語』が、絶対の真実とは限らないかもしれない。絶対の真実かもしれないけども。
 結局の所、長く生きている者にしか歴史はわからない。そういう事なのだろう。



 彼女達は在り続ける。これまでも、これからも。



06年04月10日(月)



2.あいつも同じ人間なんだ


 黒髪の娘が、数人の男女に取り囲まれていた。
 娘は殴られ、蹴られ、切り裂かれ、ありとあらゆる暴行を受けていた。

「お前はもう月の姫ではない!! 死ね!」 

「消えろ永遠ッ!」

「こいつはクズだッ!!」

「クズは死ね!」

「鬼畜が!」

「よく考えたらこいつの我侭のせいで、どれだけの人間が苦しんだよな!?」

「殺せ! 消去しろ!!」

 娘は血痣だらけで、何度も何度も殺される。
 その度に生き返り、そして再び殺される。
 そんな絶望の中で娘は見た。

「お、お父さん……?」

 それは娘の父親の姿であった。
 どんな顔をしているかはよく見えない。

「たすけ……」

 哀願する娘に対して彼女の父親であったはずの男は、娘の喉笛を切り裂いた。

「お前は人間でも月の民でも、俺達の娘のカグヤでもない!
永遠を操る存在などこの世に在ってはならない! お前はクズだッ!! 生きてちゃいけないモノなのだッ!」

 カグヤと呼ばれた娘の父親は、カグヤを切り裂き続ける。
 永遠を操る存在はこの世に在ってはならない。


 カグヤが今”処刑”されてる理由は、彼女が能力者である事。
 それが全てであった。



−−−−−



 月の歴史がいつから始まったのか、誰も知る者は居ない。
 だが月の民は文明を異常なまでに発達させてきた。


 まず彼らは抗菌を徹底させた。
 眼に見えない程小さな細菌から花から出る花粉まで、体に有害な物質は徹底的に除去していった。
 その結果、穢れた地上とは比べ物にならない程、綺麗な環境へと生まれ変わったのだ。


 次に彼らは「寿命」という多くの人間にとって最大の恐怖である問題を解決しようとした。
 いくら抗菌をしても人間はいつか死ぬ。
 永遠は自然界に存在しない。
 それを「実体化」させる事は不可能であるしタブーでもある。

 しかし月人は、永遠に頼る事なく死の恐怖から逃れる事に成功した。
 「薬」を大量に摂取させる事により、月人は無限に延命する手段を手に入れたのだ。
 更に技術は進歩していき、月人は死者を「蘇生」させる事すら可能となった。
 薬の家系である八意の者が「ライフゲーム」という遊戯の一つを医療改善に応用し
 「ライジングゲーム」なる秘術を完成させたのである。
 この「ライジングゲーム」によって、今まで死んだ人間も蘇生させる事が可能になった。


−−−−−


 確かに月人は「永遠」という自然界に存在しない物に頼る事なく、「不老」と「不死」を手に入れる事に成功した。
 だが、何かが狂っていた。

 月人は延命するだけして「不老」と「不死」を得た。
 だが薬の与えすぎで寿命が長くなった彼らは世代交代する事を止め、御家断絶をするようになった。
 千年、万年、億年と年月を重ねる事になっても月は何も変わらなかった。
 地上人が増長しないように、妖怪を使ってこまめにその数を調整していったが、やる事はそれぐらいしかなかった。
 「生きているだけ」の月人が、数も増やさずに在るだけだった。


−−−−−


 そんな状況の中、とある好事家の家系に一人の女子が生まれた。
 その好事家は、傍目から見れば変な物しか集める事を除けば平凡な月の民である。
 だが少子化が行く所まで行ってしまった月では、人間の誕生は「奇跡」に等しい。
 月人達は幼い同胞の誕生を心から喜んで、親しみを込めて女子を「姫」と呼んだ。


 その赤子はカグヤと名づけられた。


−−−−−


 それから数億年の歳月が流れた。
 カグヤが生まれてから月の民は数を増やす事も減らす事もなく、地上人の数を調整しながら普通に暮らしていた。
 月人で一番若いカグヤは、月の民として大切に育てられていた。

 カグヤの延命治療を行っていたのは、薬の天才家系である八意家の特に頭脳明晰である永琳であった。

 ある日。
 永琳は、カグヤを診察するために回診にやってきていた。
 馴れた手つきで、永琳は延命のための薬作りをしていた。

「ねえ、永琳って強いの?」

 カグヤの問いに、永琳は薬を作る手を止めて答えた。

「ええ。周りからは「永琳の強さは八意一族最強」と言われますね」

「本当かしら……」

「さあ、どうでしょうか。何分、他人の評価なので私にはどうも……」

 永琳の話は、あながち虚言ではない。
 永琳が生まれたのはカグヤの数十億年程の、正確な日にちはわからないほどのずっとずっと昔である。
 だが永琳が生まれついて持っていた才能は生半可な物ではなかった。
 「ライフゲーム」を医療改善に応用して、死者の蘇生術である「ライジングゲーム」の理論を作り上げたのは永琳である。

 そして永琳は青春を努力に費やしてきた。
 限りない才能を伸ばすためにひたすら努力した。
 何もしなくても十分に地上の妖怪と渡り合える程の才能を、更に伸ばしていったのだ。

 それが永琳の不幸であったのかもしれない。永琳は強くなりすぎたのだ。
 そして無駄に生き続けて来た永琳は、周りに流されるままカグヤに延命治療を施す仕事を引き受けた訳である。
 勿論、そんな事などカグヤは知らない。


−−−−−


 カグヤは「不老」の薬を飲み干した。
 その薬は非常に苦い。
 カグヤは、それを一気に水で飲み干す。

「相変わらず苦いわね、永琳」
 
「あはははは。「良薬口に苦し」という言葉があるように、苦いほど薬は効くんですよ。姫」

 カグヤは相変わらず「姫」と呼ばれている。
 月の民では一番若いというだけなのに。
 そのせいか、カグヤに同年代の友人は存在しなかった。
 それどころか気軽に接してくれる存在すら居なかった。
 そんな中、永琳だけは言葉遣いこそ丁寧だが、カグヤにとっては唯一気軽に話すことが出来る存在であった。

「ふーん。そういうものなのね」

「ええ」

 永琳にしてみれば、頭脳明晰であるだけで祭り上げられた自分と、月の民で一番最後に生まれただけで祭り上げられたカグヤは、かぶって見えたのかもしれない。


−−−−−


 永琳はカグヤの延命治療を全て行った後、家へ帰ろうとしていた。
 そんな永琳に、カグヤは声をかける。

「ねえ永琳」

「なんでしょう。姫」

「永遠って何なの?」

 カグヤの問いは謎に満ちていた。
 永琳にはカグヤが何故「永遠」なるものに興味を抱くか理解出来なかったのである。
 だが、質問には答えるべきだと思った。

「珠はね、少しでも欠けると価値は無くなる。それは、永遠に丸のままではいられないからです。
でも、その傷が付いた珠も、転がしているうちにまた珠に戻る。
そういうことです」

「ワビの世界ね」

「ええ。ワビサビには風流があります」

 カグヤは、ふふっと無邪気に笑う。そこに打算などない。

「永琳にだけ教えるけどね。私、永遠を操る事が出来るの」


−−−−−


 カグヤが永遠と須臾を操る能力を持つ人間である事を、最初に知ったのは僅か昨日の話である。
 その日、気弾を発射する術を永琳に教えてもらったカグヤは、他に迷惑かけない場所で弾を発射してみたのである。

 それは青白く細長い弾。
 カグヤはそれを美しいと思い、しばらく見入っていた。
 だが、すぐに異変に気づいた。

 永琳が言うには、気弾は数分経てば勝手に消えるらしい。
 だがカグヤが放った弾は、いつまで経っても消えずに残っている。
 カグヤは、いつまでも消えない弾を懐に仕舞い込んで家に持ち帰った。


 それこそがカグヤの「永遠と須臾を操る程度の能力」の萌芽であり、能力の片鱗でもあった。
 永遠操作能力の一つに「物質を”永遠”に留めておく」という物がある。
 カグヤはこの時「弾」を「永遠」にしたのであった。


−−−−−


 カグヤが持ってきた弾を見て、永琳の顔つきは凍りついた。
 確かに、それは「永遠」としか言いようがない物だった。

「姫……。これは……?」

 永琳は動揺を抑えて、カグヤに問うた。

「だから永遠って言ってるじゃないの」

 それは、あっけらかんとした言い草であった。
 カグヤは気づかなかったが、永琳は事の重大さを理解していた。


−−−−−


 人間には異常な能力を持った者が、極稀に生まれる。
 その数は非常に少ないが、死を操る能力者や騒霊を操る能力者が存在していたという文献もある。

 だが月では能力者の存在を許さない。
 今まで月に居た能力者は、例外なく処刑されている。


 ・・・・・・・・・・・・・・・・
 能力を持つ事そのものが大罪なのだ。


 宇宙人の思考は意味不明であっても、宇宙人にはそれが常識となっている。
 カグヤは生まれてきた事そのものが罪であり、能力者であるという原罪を持ってして生まれた存在なのである。
 発覚すれば原罪の重さに潰され、処刑という運命が待つ。


−−−−−


 永琳は、カグヤの身に同情した。
 「永遠と須臾を操る程度の能力」という原罪を持っただけで、彼女は処刑されねばならない。
 頭脳をフルスピードで回転させてこれからどうするかを考えた。

「姫…… 姫が永遠を操れる事は、私だけに教えてくれた事なのですか?」

「だから、そう言ってるじゃないの」

 永琳は心の中で安堵した。
 カグヤが能力者である事を知るのは、カグヤ本人と永琳だけらしい。
 だが、もし他の者に知られればカグヤは処刑される。
 その身の上を不憫に思った永琳は、この事をバレないようにするのに全力を投じる事に決めた。

 まず、この事を自分以外の人間に漏らさないように忠告する事にした。
 いきなり「能力者は処刑される」という事を教えたらカグヤはパニックに陥ってしまうだろう。
 それどころか永琳の事すら信じなくなる。
 永琳はカグヤへの同情心から味方になる事に決めたが、本当の事を話すとカグヤはそれを受け取ってくれなくなる。

「いいですか姫。この事は私と姫だけの約束ですよ」

「約束? なんでかしら」

「だって、その方が素敵でしょう」

 永琳は自分自身でも陳腐な説得だと思った。
 だが、カグヤの自尊心に訴えかけるという方法は有効だろう。
 心の毒に効くのは、うどん粉などの偽薬であるのにも似ている。

「なるほど。素敵」

 カグヤは納得してくれたようだった。
 これでいてカグヤは永琳を信頼してるから、自分が能力者だと教えたのだし
 約束を裏切るほど愚かな少女でもない。

「お父様とお母様にも教えてはなりませんよ」

「ええ、わかったわ」

 とりあえずカグヤには「自分以外に能力の事を話さない」と約束を取り付けさせた。
 だが、それが根本的な解決になってない事は永琳にも理解出来る。

 永琳は八意邸に帰って、今後の対策をどうするか決める事にした。


−−−−−


 まず永琳は状況をまとめる事にした。

 カグヤは「永遠と須臾を操る程度の能力」を持つ。
 その内容以前に、カグヤは「能力者」である。
 そしてカグヤがそれに気づいたのは最近であり
 彼女の言い分を信じるなら、カグヤが能力者である事を知っているのはカグヤ本人と永琳だけである。

 カグヤは不幸な少女だ。
 極度の少子化の中で生まれた最後の「子供」であり、それゆえに祭り上げられる。
 またカグヤには友人が居ない。
 同年代の子供は存在しないし、みんな年上ばかりだ。
 自分も天才というだけで祭り上げられたので、カグヤの寂しさは理解出来る。
 同情するし出来れば味方になってやりたいと思う。

 「同情」というのは陳腐な感情かもしれない。
 だが月において能力者は処刑されるだけの運命にあり、それがバレたら味方になる存在も居ないだろう。
 そんな中、カグヤの味方をする自分はおかしいのかもしれないが狂ってるのには慣れている。



「だけども永遠に隠しとおせる物じゃない……」

 月人は薬で「不老」を得ている。
 宇宙からやってきた侵略者にでも襲われない限り、いつまでも生き続けるだろう。
 それはそれで良いのだが、つまりはカグヤは処刑されないために、ずっと能力を隠さなければいけない。
 いくら処刑が恐ろしくても、それを何億年も何兆年も隠し通す事など出来るだろうか。不可能だろう。


 この状況の中、永琳は頭脳をフル回転させる。
 カグヤが処刑されて殺されないためには、どうすれば良いのか。
 永琳ですら頭を抱える難題である。
 そして一晩中、永琳は考えた。


−−−−−


「もう…… こうするしかあの娘を”生かす”方法はないのね」

 永琳は、カグヤにとって最善の手段を導き出した。
 だが、その答えは


 まず、カグヤの処刑は食い止められない。
 カグヤの能力は、いつかはバレる。
 理論上は何兆年も生きられる技術を月人が持ち合わせてる以上、カグヤも何兆年も隠す必要がある。
 そうなれば、いつかはわからないが確実に能力がバレる。
 何億年後か、何ヵ月後か、もしかすると明日にでもバレるかもしれない。
 もし見つかれば確実に殺される。

 カグヤに処刑の事実を教えればカグヤはパニックになるだろう。
 その状況でカグヤが隠し通せられる可能性は0に等しい。


 ならば処刑されてもカグヤが死なないようにしてやるべきだろう。
 カグヤがそれを望むかどうかはわからないが、もし望むなら方法が一つだけある。

「禁薬「蓬莱の薬」……」

 永琳は、その方法を一人呟いていた。


−−−−−


 禁薬「蓬莱の薬」

 ありとあらゆる薬を作ってきた永琳でも作ったことが無い、ただ一つの薬である。
 かつて月にはカグヤと同じ「永遠と須臾を操る程度の能力者」が存在したらしい。
 その時に作ったのが、蓬莱の薬だ。

 飲めば肝に溜まる。
 そして飲んだ人間は死ななくなる蓬莱人になる。
 カグヤが「弾」を永遠にしたのと同じように、蓬莱の薬は「肝」を永遠にする事が出来る。


 「永遠」と化した魂は、肉体が損傷しても埋めていく。
 結果、それは正真正銘の「不老不死」になる。
 「不老不死」となった状態なら、カグヤが処刑されても死ぬ事はない。


 禁薬製薬に加担した結果、永琳自身は罰せられるだろう。
 それでもカグヤには生きていて欲しいと永琳は思う。
 どうしてそこまでカグヤに肩入れするか自分でもわからないが、それは本心なのだろうと永琳は信じる。

 だが、カグヤがそこまでして生きたいかが問題だ。
 永琳はカグヤに生きて欲しい。
 だがカグヤは事実を知って死を望むかもしれない。
 それはカグヤ本人が決める事であって、永琳には決める事が出来ない事だ。


 確認は早い方が良い。
 遅れると手遅れになりかねない。


−−−−−


 カグヤが住む好事家の屋敷には、永遠と化していた気弾が存在していた。
 永琳に言われてカグヤは永遠気弾を隠していた。
 だが、カグヤが眠っている間に永遠気弾は宙を舞ってふよふよと屋敷を蠢いていたのだ。
 そして永遠気弾は、便所に起きていたカグヤの母親にぶつかる。
 カグヤの母親は、それを何かと思って握り締めた。

 既に事態は一刻を争う展開になっていた。


−−−−−


 翌朝。
 永琳はカグヤが住む好事家の屋敷まで足を運んでいた。
 この日は延命の回診は予定になかったのだが、遊びに行くという名目でやってきたのだ。

「ご迷惑だったかしら?」

「いいえ、嬉しいわ」

 永琳が知る限り、カグヤはインドア派であり引きこもってばっかな少女である。
 そもそも友人が居ないカグヤにとって、永琳が家に来るのは楽しみの一つであった。

 永琳は持参してきた本を、床に置く。

「姫、今日は面白い文献を持ってきました」

「面白い物なら喜んで見るわよ」

 永琳は、”それ”があるページを開く。

「禁薬「蓬莱の薬」……」


−−−−−


 永琳はカグヤに一つ一つを説明していった。
 蓬莱の薬は、過去に「永遠と須臾を操る程度の能力」を持つ人間によって作られた事があるが、即座に地上へ投げ捨てられた事。
 飲めば不老不死になるという事。
 しかし見つかれば処刑されかねないという事も丁寧に話した。
 だが能力者である事が罪である事は話さなかった。

「どうせ処刑されても死なないんでしょ?」

「ええ」

「一番気になるのはね。苦いかどうかよ」

「苦いかどうか…… ですか?」

「そう、昨日永琳が言ったじゃない。「良薬口に苦し」ってね。苦いかどうかが気になるの」 

 カグヤにとって興味があるのは、蓬莱の薬が苦いかどうかだけであるらしい。
 だが、それによってカグヤは蓬莱の薬に興味を抱いたようだ。
 しきりに「作りましょ」と永琳に頼んできている。

「……わかりました。でも本当にいいんですね、姫」

「ええ。物凄く苦くても大丈夫よ」

 永琳は、自分がカグヤが蓬莱の薬に興味を抱くように誘導したのではないかと思った。
 だがカグヤが動機がどうであれ、蓬莱の薬を作る事を望んだ。
 ならば作ってやるしかない。

「では、姫……。私の指示通りにお願いします」

「ええ」


−−−−−


 永琳はカグヤに指示を出して、蓬莱の薬を作っていった。
 出来た蓬莱の薬は、薬の形をしているだけの「永遠」である
 カグヤは蓬莱の薬を舐めて。

「微妙な味」

 と言った。

 ついでに永琳も、最悪の場合に備えて蓬莱の薬を飲んでおいた。
 流石に死ぬのは嫌だし、蘇生もしてくれないだろう。
 それに色々と興味もあったからだ。

「確かに苦いけど甘くもありますね」

「でしょ」

 この時点で、カグヤと永琳は「永遠」という存在そのものへと変貌していた。
 DNAは歪められ、既に人の形をしたモノになっていたのだ。


−−−−−


 だが、カグヤが能力者である事はバレていた。
 永遠気弾が見つかった事で、カグヤに疑いが行ったのだ。
 カグヤは取り押さえられて、少々の尋問後に自分が能力者だという事を白状してしまった。


 それからのカグヤの生活は、ガラリと一変してしまった。
 自分が能力者だと白状させられた後は、即座に処刑されてしまった。
 だがカグヤは死なない。魂が永遠化しているので、勝手に蘇生してしまうのだ。

 以後はありとあらゆる手段で殺害が試みられた。
 だが、どんな手段を持っても死なない。
 月人は能力者への嫌悪をむき出しにして罵ってきた。

「お前は人間じゃない。クズだ」

 そう罵られ続けたカグヤは、発狂寸前になりながらも死ななかった。


 そして最終処置として、穢れた地上へ送り込まれる事に決定された。
 地上には雑菌や花粉などが飛び交い、風邪で死んでしまう事もあるという、月人からみれば劣悪極まりない環境だった。
 そこへ放り投げられるようにして落ちていった。
 地上まで堕ちる時は、とても熱かったがそれも覚えていない。


−−−−−


 それから色んな事があった。

 輝夜は、次第に地上が好きになっていった。
 穢い処もあるが、それ以上に地上には心がある。
 発狂寸前にまで追い込まれていた輝夜にとって、地上での生活は幸せな物だと思った。


 だが月人の一般的な認識では、「地上が好き」と言ってる輝夜は狂人にしか見えなかったらしい。
 何とかして連れて帰ろうとした月の使者は、輝夜が世話になった地上人をゴミのように殺害したりする。
 彼らに迷惑をかけたくないと思った輝夜は、一人で戦おうと決心する。
 永琳の助けもあって、月の使者は撃退するが「月より地上の方が住み心地良い」という輝夜の認識を認めたくない月人は
 何度も執拗に輝夜と永琳を追っていった。


 輝夜は永琳の術で身を隠す毎日が続いた。
 「幻想郷」までたどり着いて、そこに居れば身を隠す必要がないと知るまでには時間がかかった。
 地上の迷惑な人妖が、夜を止めて色んな人々に多大な迷惑をかけつつも、輝夜の五つの難題を全て解いて
 その後に色々あって、今では堂々と地上で暮らせる事を認識したのだった。


−−−−−


「ほら。もっと酒持ってくんの」

「ひ、姫…… いくら何でも飲みすぎですってば」

「何言ってんのよイナバ。酒ってのは無限に湧き出てくる物なんだって。ひっく。
だからいくら飲んでも問題なーいんだってばぁ」

「いいから私に絡むな。とっとと死ねよ」

「何言ってんのよ、妹紅。私達友達じゃないの…… ひっく」

「死んでもお前の友には絶対ならん」

「あんたは苦労」

「ああ、お前が蓬莱の薬を置いてったせいでね」

「私だってそれと同じかそれ以上苦労してきたからいいじゃないのよぉ。月に居た頃は永遠を操れるってだけでバケモノ扱いだったし……」

「お前の過去なんか興味ないがね。輝夜、お前も私と同じ人間だし、幻想郷じゃ人間と妖怪の境界なんざよくわからん。それでいいじゃないか」

「…………ありがとう……」


−了−


3.妹紅と博麗神社

 花の異変も、マイペースな死神の仕事によって何とか解決した頃。
 幻想郷の季節は、秋の中頃まで差し掛かっていた。


 魔法の森に住む霧雨魔理沙は、いつもの様に博麗神社へ遊びに来ていた。
 階段を登りきった所に居たのは、いつもの様に縁側で茶をすすっている霊夢の姿がある。
 霊夢の人柄によるのか神社には、妖怪や人外クラスの人間がたむろってる事が殆どだ。
 そしてこの時も、神社には霊夢の姿のみならず魔理沙が見知った顔があった。

「おっ、珍しい奴が居るな。確か人里の善良な人間は、こんな辺境な神社なんて近づかないと聞いたが?」

「んー? 私は人間だけど別に人里に住んでる訳じゃないよ。むしろ人里に行ったら善良な人間が怖がってちびるぐらいだよ。それにどうせ暇だしね」

 霊夢の横で茶を啜っていた藤原妹紅は、落ち着いた感じで言ってのけた。
 多分、あの茶葉は霊夢が香霖堂から持ってきた物なのだろうが、魔理沙はいつものように知らんぷりする。

「それよりあんたが傍に居ると暑いんだけど」

 妹紅の横に居る霊夢は、汗だくで暑そうにしていた。
 そもそも妹紅は人体発火するのである。
 霊夢が暑そうにしているのも、妹紅が人体発火するのが原因なのだろう。
 まあ、人体発火の原理は、妹紅本人もよくわかってないのだが。

「心頭滅却すれば火もまた涼しって奴だよ。修行が足りないんじゃないのかね」

 妹紅は霊夢の頭をポンポンと叩く。
 ちなみに霊夢が修行不足なのは事実ではある。

「どうせなら永遠亭に行ったらどうだい? あんたが居るだけで蒸し焼きだ。輝夜も死ぬぜ、多分」

「それは名案、って言いたいんだけど、輝夜んちは竹林の中にあるんだよねぇ。竹林はやたら迷うんで運が良い時にしか行けないから輝夜んちには行かない」

 魔理沙の提案に、妹紅はNOと答えた。
 竹は成長が早く毎日姿を変える。
 そのためかやたら迷いやすく、その竹林の中にある永遠亭に辿り着くためには
 やたら運が良いか、あるいはあそこに住んでいる月人でないと無理である。
 
「永遠亭なんか行こうと思えばすぐに行けるじゃないの」

 だが、霊夢は軽く言ってのけた。
 天性の直感と幸運を持つ霊夢にしてみれば、その気になれば竹林など迷わずに進めるのである。

「でもあいつが一番来そうな場所ってここなんだよね。だから、ここに居ればあいつも来るんじゃないの?」

「いいから帰れ」

「そうだな。輝夜が来るまではここに居させてもらうよ」

「帰れ」

 妹紅は霊夢のセリフを無視して言った。
 存在そのものが「永遠」と化している妹紅は、本当にいつまでも居座り続けるかもしれない。
 だが、まあ時間というのはゆっくりと流れる物である。
 魔理沙もいつの間にか縁側に座ってくつろいでいた。



−−−−−


 少しだけ時間が経った。
 霊夢と魔理沙と妹紅がくつろいでいる博麗神社に、新たな珍客が姿を見せようとしていた。

「兎鍋反対! 兎鍋反対!」

 という甲高い声が響き渡っている。
 その声の主は、階段を律儀に足で登っているらしく、次第に声も大きくなっていた。

「やかましい声だな。一体、何だ?」

「何か最近になって永遠亭の兎どもが「宴会で兎鍋やるな」って五月蝿いのよ。野蛮な風習がなんとかってね」

 魔理沙の質問に対して、霊夢はそう答えた。
 「野蛮なのはどっちよ」とも付け加えて。

「ああ、あいつらはよくやるよ。そういう事。輝夜とは関係なしでね」

 横で霊夢の話を聞いていた妹紅は、一人で話し始めた。

「あれは普通の人間は眠る真夜中の出来事だった。普通の人間は散歩なんかしない。そしてその時、私は散歩をしていた」

「自分が普通じゃないって自覚はあるんだな」

 妹紅は、魔理沙の横槍を無視して続けた。

「真夜中には妖怪が闊歩している。だが私も伊達に蓬莱の薬は飲んじゃいない。御札とかで退治して構わず散歩していた。
 そんな時、やたら大声を出して騒ぎまくってる奴が居た。
 それが永遠亭の兎だった。月から来たとか言ってる黒い服着たあいつの事ね」

「鈴仙だな」

「その兎は何か人間を追いかけていた。その兎がウザかった私は手を挙げて「肝食うぞ」と脅してやった。
 そしたら兎は即座に逃げていった。
 私は「近頃の輝夜の刺客は全く骨がない」とか思いながら、兎が追いかけていた人間を探した。
 だが居なかったので、どっか逃げたんだろうと思って私は気にせず散歩を続けた。
 ちなみにその人間は、前に霊夢と一緒に組んでいたスキマ妖怪に似てた。
 あのスキマ妖怪も私と同じ人間なんだ。
 今でも私はあの妖怪が輝夜の刺客だと思ってる。ついでに貴方達も輝夜の刺客だと思っている。
 でも私は死ぬ事はない。ああ、生きているという事は何と素晴らしい事か」

「何か話が変な方向へ行ってない?」

「そもそも紫は妖怪だろう」

「予定調和だよ、予定調和。どこも変な方向になんか行っちゃいないじゃないか」

 そして妹紅が長話をしている間に、兎角同盟は階段を登って神社の境内までやって来ていた。


−−−−−


「兎鍋出すなー! 鳥鍋出せー!」

 神社の境内で、大声を張り上げ叫ぶ兎角同盟。
 その先頭に立つのは、月の兎である鈴仙・優曇華院・イナバである。

「ああ、五月蝿いわねぇ」

「そうだな。少し黙らせてきてやるよ」

 妹紅は縁側から立ち上がると、紅い眼を光らせながら鈴仙の元へ歩いていった。


−−−−−


「鳥鍋出せー! 鳥……」

 鈴仙が蓄音機のごとく叫んでいた最中。
 不意にブレザーの胸元を掴み上げられた。

「会いたかったぜ輝夜の兎。肝食わせて」

「もももも、妹紅様ーッ!?」

 鈴仙はポケットに片手を突っ込んでいる白髪の少女を見て、真っ紅な眼を大きく見開いて驚いた。
 人妖問わず多くの者を恐れさせてきた妹紅。
 その存在に恐れずに立ち向かえる存在は、あんまし居ない。
 特に永遠亭の兎達にとっては、主である輝夜を(一人で)敵視している妹紅の存在は他人事ではない。
 下手すれば竹林ごと永遠亭を焼き討ちにされかねない。
 兎角同盟の生殺与奪は妹紅の手にあるのだ。
 それを理解している下っ端の兎達は、文字通り脱兎のごとく逃げ出した。

「な、なんで妹紅様がこんな所に!?」

 妹紅に襟首を掴まれている鈴仙は、逃げたくても逃げられなかった。
 出来るだけ妹紅の眼を見ないようにするのが精一杯だった。
 普通なら失礼な行為なのだろうが、狂気を宿している鈴仙の眼を見つめると下手したらヤバい。
 眼を見たら妹紅を興奮させるだけだろうし、そうなれば真っ先に鈴仙がやられかねない。

「私は輝夜とか慧音とかお前の師匠とかとしか人間関係が無い訳じゃないよ。別に私が霊夢や魔理沙と一緒に居てもおかしくないだろう?」

「おかしくなんかないですけど……」

「貴方達こそ何やってんの。近所迷惑というのを考える必要があるんじゃないのかね?」

「ま、まあ……。宴会で食べる物がないので、せめて鳥鍋だけでも出してくれればいいなぁって思ったので……」

「兎鍋やめろ、ってのはどうなんだい」

「それは別にどうでも良いんですけどね。捕まった兎が悪いんだし、別に私は地上の兎に特に仲間意識持ってないし」

 鈴仙のセリフを聞いて、妹紅は深くため息をついた。

「月が出身だの、地上が出身だのとこだわってるのはお前さんだけだよ。お前の師匠も輝夜のバカも、今じゃ地上人だしな。私と同じでね」

「は、はあ……」

「そもそもあいつらにも色々あったんだろうしな」

 「今でも輝夜は憎いけどね」と妹紅は付け加えた。

「という事で憎い輝夜が住んでる永遠亭まで道案内よろしく」

「ええ…… 来るんですか?」

「ああ行くよ。だからちょっとそこで待ってろ。逃げたら肝食うからな」

「はいはい、逃げませんよ」

 妹紅は縁側の霊夢と魔理沙の元へ歩いていった。
 その後姿を見る鈴仙は、逃げても良かったのだが肝を食われるのは怖いので逃げられなかった。


−−−−−


「ほらね。兎なんてのは「肝食うぞ」とか脅せば逃げてくもんだよ」

「そんな脅迫するのはあんただけよ」

 妹紅は、霊夢のセリフを無視して言った。

「そんじゃ輝夜んちへ行ってくるわ、あと宴会にも出るからよろしく」

「来るのかい」

「それと鳥鍋の用意しときな。兎よりダシが出て上手いかもしれないしね。鳥は私が用意してやる」

「焼き鳥になってそうだぜ」

 魔理沙が言ったように、その日の宴会は焼き鳥だった。



 生きているってなんて素晴らしいんだろう。


〜了〜


4.博麗神社の境内でエイエンを叫ぶ須臾


 輝夜と妹紅は博麗神社の境内で遊んでいた。
 互いに「永遠」という自然界に無いはずの存在と化している。
 それ故に憎み合ってる、と傍目から見ればそう思うのだろうが
 永遠を呪っていたはずの妹紅は、人妖コンビに何度もぶち殺された結果、生の幸せを実感して今になっては輝夜に感謝してるぐらいである。
 輝夜に関しては永遠を操れる能力を持った事は呪った事はあるが、「永遠」と化したことには後悔していない。
 輝夜にとって過去は無限にやって来る物であり、だから過去より今を大切にするのだ。
 それは千兆分の一=須臾。という瞬く間の時間なのかもしれない。輝夜は須臾も操る。


「今まで、何人もの人間が敗れ去って
 いった五つの問題。
 貴方に幾つ……」

「ダサイセリフなのよ」

 妹紅がジャージのポケットに手を突っ込んだままローキックを放つ。

「解、げあっ!?」

 見事なまで速度を速めた妹紅のヤンキーキックが、輝夜のスネに突き刺さる。
 元々引きこもってばっかだった(永琳談)輝夜は足腰があんまし強くない。
 輝夜は前のめりに転んでしまった。

「足元がおるすよ。輝夜」

 幻想郷は平和なのである。


−−−−−



「なるほど……。だけどやり方が気に入らないわね、妹紅」

 輝夜は妹紅に不敵な流し目を送る。
 そして次なる攻撃の態勢をとった。

「人間に宿るは儚い霊(たま)。
 その人間が住むのは大きな球。
 そして、貴き民が住むのは……、
 後ろに見える狂おしい珠」

 だが馴れ合いが全く存在していない訳では決してないのだが
 犬猿の仲というか、輝夜と妹紅は仲が悪かった。
 そして今も遊戯を続けてる。

「見せてあげるわよ。
 本当の月が持つ毒気を!
 それと、私からの美しき……」

「ダサイセリフなのよ」

 妹紅がジャージのポケットに手を突っ込んだままローキックを放つ。

「難だがっ!?」

 見事なまで速度を速めた妹紅のヤンキーキックが、輝夜のスネに突き刺さる。
 元々引きこもってばっかだった(永琳談)輝夜は足腰があんまし強くない。
 輝夜は前のめりに転んでしまった。

「足元がおるすよ。輝夜」


−−−−−


「なるほど……。だけどやり方が気に入らないわね、妹紅」

 輝夜は立ち上がって、妹紅に不敵な流し目を送る。
 そして次なる攻撃の態勢をとった。


 輝夜と妹紅が遊んでいる最中、それを見ている人物達が居た。
 神社の巫女である博麗霊夢と、輝夜の従者(ペット)である鈴仙・優曇華院・イナバの二人である。
 今日は宴会の日である。
 鈴仙は永遠亭代表として宴会の準備を手伝わされているのだ。
 それに鈴仙は「鳥鍋出せ運動」の首謀者だったので主に鳥鍋関係の準備をさせられている。
 という事で、霊夢と鈴仙はとっとと準備をしたいのだが
 激しい遊戯を繰り広げている輝夜と妹紅が居ては、境内で準備が出来ない。

「ねえ兎。あいつら何とかしなさいよ。あいつらの一人はあんたの主人なんでしょ?」

 霊夢は横の縁側に座っている鈴仙に向かって言った。
 それに対して鈴仙はこう答えた。

「ごめん無理」

「ダサイセリフなのよ」

 妹紅がジャージのポケットに手を突っ込んだままローキックを放つ。

「それ私のセリフじゃなっ!?」

 見事なまで速度を速めた妹紅のヤンキーキックが、輝夜のスネに突き刺さる。
 元々引きこもってばっかだった(永琳談)輝夜は足腰があんまし強くない。
 輝夜は前のめりに転んでしまった。

「足元がおるすよ。輝夜」


−−−−−


「なるほど……。だけどやり方が気に入らないわね、妹紅」

 輝夜は立ち上がって、妹紅に不敵な流し目を送る。
 そして次なる攻撃の態勢をとった。

「これが避けれるかしら!? 新難題「金……」

「ダサイセリフなのよ」

 妹紅がジャージのポケットに手を突っ込んだままローキックを放つ。

「がくっ!?」

 見事なまで速度を速めた妹紅のヤンキーキックが、輝夜のスネに突き刺さる。
 元々引きこもってばっかだった(永琳談)輝夜は足腰があんまし強くない。
 輝夜は前のめりに転んでしまった。

「足元がおるすよ。輝夜」


−−−−−


「なるほど……。だけどやり方が気に入らないわね、妹紅」

 輝夜は立ち上がって、妹紅に不敵な流し目を送る。
 そして次なる攻撃の態勢をとった。

「新難題「金閣寺の一枚天井」!!」

「ダサイセリフなのよ」

 妹紅がジャージのポケットに手を突っ込んだままローキックを放つ。

「がくっ!?」

 見事なまで速度を速めた妹紅のヤンキーキックが、輝夜のスネに突き刺さる。
 元々引きこもってばっかだった(永琳談)輝夜は足腰があんまし強くない。
 輝夜は前のめりに転んでしまった。

「足元がおるすよ。輝夜」


−−−−−


「何をバカにしてんのよ!」

 度重なるローキックハメに対して、遂に輝夜がキレた。
 輝夜の瞳は、月の狂気に満ちた紅い物へと変化していく。
 ここからが正念場である。

「妹紅、私の力を見せてあげる。
 これで勝ったらその時は……。
 そこの霊夢とイナバ!」

 輝夜は縁側で観戦していた霊夢と鈴仙に目をやる。
 一方の霊夢は全く動じず呆れ帰った目でにらみ返し
 一方の鈴仙は輝夜にビビってお漏らしをしていた。その学生服のズボンを黄金色の汁が(以下検問

「私の力と私の本当の力、
 一生忘れないものになるよ!」

「ダサイセリフなのよ」

 妹紅がジャージのポケットに手を突っ込んだままローキックを放つ。

「がくっ!?」

 見事なまで速度を速めた妹紅のヤンキーキックが、輝夜のスネに突き刺さる。
 元々引きこもってばっかだった(永琳談)輝夜は足腰があんまし強くない。
 輝夜は前のめりに転んでしまった。

「足元がおるすよ。輝夜」



−−−−−


 輝夜は立ち上がらなかった。
 次なる攻撃の態勢も取らなかった。
 
「ひ、姫−−−−−!!」

 鈴仙はズボンが濡れている事を気にせず、輝夜の元へ駆け寄る。
 そしてその足を見て驚愕した。

「な、なんてこと!? 足が変な形に曲がってるわ!」

 はやる気持ちを抑えて鈴仙は、輝夜の手首を触った。
 だが脈がない。心臓が動いていない。

「……死んでる」

 輝夜の眼には涙が浮かんでいた。
 蓬莱山輝夜は死んだのだ。
 その事実が、この場に居る全員に襲い掛かった。

「さらば輝夜」

 妹紅の呟きは、空へと消えていった。


−−−−−


 ちなみに輝夜はその後5秒で生まれ変わり
 宴会も、咲夜と妖夢の協力を得てすぐに準備が完了しましたとさ。

 めでたしめでたし。



「妹紅、酒持ってこーい!」

「もっかい死ね!」


5.Syuyu

 木で串刺しにされ、焚き火で焙られる兎。
 人語も喋れない。月の兎でもなければ詐欺師でもない、何の変哲もない兎である。
 先ほどまで必死に泣き喚いていたのだが、もう何も聞こえない。
 ジャージのポケットに片手を突っ込んでいる白髪の少女は、紅い瞳で焼かれる兎を見つめていた。

「んー。そろそろ頃合いかなぁ」

 少女は、焚き火に放り込んでいた兎に刺した串を掴みとる。
 兎は既に絶命していた。
 少女は、炎で絶命した兎の頭をもぎ取って口に放り込み、租借してから飲み込む。

「兎肉は淡白ね。あのバカ、兎どもにロクなもん食べさせてないんじゃないのかね」

 少女は兎の飼い主を思い出して、フンッと鼻で笑った。
 その後に兎を食べようとする。
 だが、残った兎肉を口に運ぶ事は阻まれた。

「何やってんのよ! 妹紅!」


 Syuyu





 突然怒鳴り声を上げられた妹紅は、兎肉を食べるのを忘れて
 いかにも不愉快そうな顔を、その声の主に向けた。
 良く見るとその声の主は、後ろに普通の兎達を連れているようだった。

「輝夜か? 何のようだ? この辺は山火事が発生してるらしいから、お前の家も火元には注意した方が良いと思うね」

「って、山火事の原因は貴女の所為でしょうに……」

 輝夜は、妹紅に対して怒りを忘れて呆れた。
 だが、輝夜の後ろに居た兎達の抗議らしき声を上げたのと同時に再び表情に怒りが戻る。

「そんな事より、何やってるのよ! 妹紅!」

「兎食ってる最中だけど。お前に食わせる分は無いよ」

「そんな事は見ればわかるのよ! 何、人ん家のペットを勝手に食べてるのよ!」

「お前の家のペットだからよ。いちいち言わなきゃわからないのかね? ボケたんじゃないの?」

「違うって、ボケてなんかないってば」

「輝夜がボケ老人になったか。めでたいねぇ」

「いいから人の話、聞きなさいよ…… って全部食べきってるし!」

 輝夜が怒ってる最中、妹紅は兎肉を平らげていた。
 妹紅は人の話を聞かない。
 そんな事は輝夜もわかっているはずなのだが、本気で食いかかっていく。

「で、用件は何かしら。ボケ老人の月人さん」

「ボケ老人じゃないし、今は地上に這いつくばってる賤しい地上人のつもりだけどね。ってそんな用件じゃないのよ」

「ああ、そうだな。お前の用件など簡単に読み取れる」

「ええ、そうよ。理解してくれてありがとう」

 そして妹紅は紅い瞳を光らせて言った。


−−−−−


「私を殺しに来たなッ!!」

「違うってばッ!! 何、人ん家の近くで焚き火なんかやってんのよ! って注意しに来たのよ!
 しかも人ん家のペット食べてるし!」

「むきー! お前はいつもそうだ! 私の元に刺客を送ってくる! 私を消そうとする!
 今度は直接やって来て、私をいたぶってから殺すつもりだな! そうは行くか!」

「刺客を送ったつもりなんてないし、消したいなんて口に出したこと一度もないわよ
 永琳なんか、もう手遅れらしい貴女の狂気の瞳を治療してやってる恩人みたいなもんじゃないの」

「蓬莱人を滅する事など無理だとお前自身もわかってる癖に!
 私をこんな体にしたのはお前のせいじゃないか!」

「私のお爺さんを殺してまで、蓬莱の薬を手に入れようとした奴が何言ってんのよ」

「そもそも八意や優曇華院とかが居ないのも、私を殺すための罠を張ってるつもりだな!
 そうは行くものか! お前達の罠などお見通しだ!
 どこだ! どこに居る! 八意! 優曇華院! てゐ!
 隠れてないで出て来い! お前達が私を殺そうとするなら私も抵抗してやる!
 さあ! さあ!! さあ!!!」

「永琳は人間の里で薬を売ってるし、鈴仙は神社で鳥肉を出してもらうように交渉してる最中だし
 因幡はその辺で遊んでる最中じゃないのかしら」

「いいわ、輝夜。殺しあおう。
 お前私を殺したいって言ったね。その点だけは私とお前は同類だよ」

「いいから人の話聞きなさいよ……」


−−−−−


 一人だけ違う世界へトリップしてしまった妹紅を見つめて、輝夜は思わずため息をついた。
 だが、このままだと戦闘は避けられないのだけは確かだった。
 輝夜は懐からスペルカードを取り出して、臨戦態勢に入る。

「貴女にいくつ私の弾幕が避けれるかしら。妹紅」

 弾を撃ち放とうとする、須臾の合間。
 連れていた兎が、輝夜の背中を叩いた。

「何よ。今、忙しいから後で……」

 と、そこで輝夜は後ろを振り返った。
 竹林が燃えてる……。




「火事−−ッ!!??」

 竹林が燃えていた。紅く燃えていた。
 その火災は広がっていき、竹林全てを飲み込まんとしている。
 このまま火の手があがると近所にある永遠亭は、完膚なきに全焼してしまうだろう。

「一体何故…… って妹紅! 貴女の所為でしょ!」

「来い輝夜! 永遠の命の恐ろしさ、お前にも味あわせてやる!」

「そんな事はいいからとっとと火を消すのよ! ほら、イナバ達も!」


−−−−−


 輝夜と妹紅と兎達の、懸命な消火活動により、
 幸いにも、周囲10米程度まで広がったところで食い止められ鎮火した。


 なお、二人は後日こう語っている。

「出火の原因? そ、そうねぇそれは判らないけど、
 偶然居合わせたから消化しただけよ。大惨事にならなくて良かった」(妹紅)

「この近くに私の家があるの。そこまで火が広まったら困るじゃないの。
 それに誰だって目の前で火が出ていたら消化するでしょう?」(輝夜)

「た、煙草のポイ捨てかしら? 最近の若いもんは非常識なもんでねぇ。
 平気で信じられないことをしたりするのよ」(妹紅)

「焼き鳥のポイ捨てかもしれないわね。この辺は焼き鳥のメッカだからね」(輝夜)


−了−


 <09年11月に書いた解説>

 こんなSSを書いてる所にうどんげっしょーが好きな理由が詰まってますね。




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